感動を引き起こすのは、人の心に眠る「ストーリー」
2017/02/27
学生時代、父と2人、よく軽登山に出かけたものです。
汗だくで、4〜5時間かけて、頂上を極めると、
普段、口にしないような塩分の強いものがやたら美味しい。
キュウリにお味噌をつけただけのものや、
普通なら酸っぱっ!と敬遠するような梅干しや・・・
そして、何よりご馳走なのが、
そんな山の頂上でいただく「牛の缶詰」(ギュウ缶)。
不断なら、絶対口にしないほど味の濃いジャンクフードが、
いやはや、何ともいえず美味しいのです。
今でも、ギュウ缶を見ると、
楽しかった父との登山の記憶とともに、
どんな高級料亭の料理よりも、
あの瞬間、美味しいと感じたに違いない、
独特の匂いや歯触りを思い出し、
思わず、久々に食べたくなる自分がいます。
ギュウ缶の味には、私だけが知っている、
さまざまな記憶や感情が眠っているのです。
ギュウ缶は、ある人にとっては、「ただのジャンクフード」。
そして、ある瞬間のある人にとっては、「完璧なご馳走」。
この違いは、
ギュウ缶のクオリティにあるのではありません。
どんなに最高級の和牛で作られたものでも、
オー○ービーフで作られたものでも、
ギュウ缶はギュウ缶。
一口食べただけで、
涙がこぼれるほど美味しいギュウ缶、
ラベルを想像しただけで感動して思わずうるっとくるギュウ缶。。。
そんな感動を引き起こすのは、
ギュウ缶のクオリティそのものや、
どんな饗され方をするかということではなく、
それぞれの中に眠る「ストーリー」。
そんな、それぞれの「ストーリー」に触れられるかどうか、
心揺さぶることができるかどうかこそが、
料理の、そして表現者のゴールかもしれません。
食べ物と音楽は似ています。
それぞれの心に眠る、さまざまな「ストーリー」。
その、ひとつひとつにアクセスするすべはありません。
しかし、
どんなにプライベートな思いでも、
こうして文字化するだけで、
読む人の心の、別の「ギュウ缶」を呼び覚まし、
心揺さぶるかもしれない。
それは、
おばあちゃんが、そっと切り分けてくれた文明堂のカステラかもしれないし、
おじいちゃんがいつもくれた榮太郎の飴かもしれない。
戸棚の中にこっそりキープした冷め切ったミルクティーかもしれない。
ひとつひとつのストーリーには、
あふれるほどの感情や色彩がある。
そんなストーリーに触れる音楽を、歌を、奏でること。
聞く人の感情のいろいろな部分を揺さぶることが、
音楽のゴールなのかもしれません。
コアでマニアックなネタをお届けする、ヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。
関連記事
-
-
人はみんな、違うのだ。だから、おもしろいのだ。
音楽というのはある種のトリガーで、 サウンドやフレーズや声が 感情とか記憶とか、 …
-
-
上澄みをすくい取って「わかった気」にならない。~Singer’s Tips#21~
ちょっと昨日のブログの続編的なお話です。 ひとつの曲が生まれて、 受け手の手元に …
-
-
「嫌い」なものは「嫌い」
人の好みはいろいろです。 納豆が大好きな人もいれば、あの匂いには我 …
-
-
「適正」って、「恋すること」なんだ。
「私は、ロックが好きなんですけど、 歌の先生に、キミにはそういう音楽は向いてない …
-
-
「古い音楽は苦手で・・・」とか言うな!
ポピュラーミュージックが意味するものは時代によって違います。 ポピ …
-
-
ギターソロが邪魔くさいぃ〜!?
「最近の子はギターソロになると、曲を飛ばすんですよ」 え?なんですか、それ? と …
-
-
ギターの6弦のチューニングは”E”と決まってる?
ギターの弦チューニングは6弦から、EADGBEと、決まってます。 ・・・ん? 決 …
-
-
自分にない価値観を学ぶのが学習ってもんだ
大学で2年生のアンサンブルという授業を担当しています。 用意された課題曲を、 楽 …
-
-
「すごい人」と、自分との距離。
どんな分野にも、すごい人というのはいるものです。 すごい人に出会う度に、自分の凡 …
-
-
なんだ、カラオケって、楽しいじゃんっ!
あたくし、今さら言うのもなんですが、 実は、カラオケが大の苦手でした。 これ、ミ …

