大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「妥協点」と「落としどころ」は決定的に違う

   

複数の人とクリエイティブな作業をしていると、
必ず、意見が分かれるときがあります。

人それぞれ、感性が違うので、あたりまえのことです。

誰の言うことが正しくて、誰の言うことが間違っている、
などということではありません。

一般論や常識や慣例は、この際一切関係ありません。

ゼロから創り上げるものだからこそ、
自分の感性にぴったりくるものを創りたいというのは、
クリエイターなら誰もが持つ、当然の欲求。

音楽でも、CMでも、ウェブでも、出版でも、
それゆえに、制作現場では揉めちゃうこともしばしばです。

自分の感性に基づく意見をしっかり主張できるようになるのは、
ある程度、経験を積んで、自分の感性に自信が持てるようになってから。

かくいう私も、若かりし頃は、クライアントやスタッフ、先輩たちと意見が食い違うと、
「きっと私にはわからないんだ」と弱気になったり、
「わかってないね」と笑われたくない、と背伸びしたりして、
すんなり迎合していたこともありました。

しかし、納得できないのに折れてしまったり、
ま、いいかと妥協してしまったりすると、後から必ず後悔します。

何度聴いても、何年後に聴いても、 気に入らないものは気に入らない。

そして、その作品を聴くたび、目にするたび、
みぞおち辺りにいや〜な感覚が蘇ります。

なぜ、納得もできないのにOKしたんだろう?

それは世の中に作品を送り出すものとして、
ベストを尽くさなかったという後悔であり、
受け手に対する良心の呵責であり、
画竜点睛を欠く作品に対する「やっちまった感」であり、
意気地のない、弱虫な自分に対する「ばかばかばかばか・・・」です。

それでも、ものすごく結果がよければ、
人々に絶賛されれば、それなりに納得するのでしょうが、
自分が納得できていないものにそんな評価が下ったことは一度もありません。

それなりの作品はそれなりの評価しかされないんです。

「うん!これでいこうっ!」という感覚はある種のインスピレーションです。
ロジックじゃない。

なにか、カラダの中でかちっと部品がはまるような、
いわゆる腑に落ちると言う感じ。
複数のクリエイターで作業をしていたら、
全員の意見をそのまま通すのは不可能です。

でも、誰かの意見が通るということは
誰かが妥協を迫られるということ。

理想論かもしれないけれど、
制作に関わる人、みんなが腑に落ちるポイント、
「落としどころ」を模索することをあきらめてはいけないと思っています。

「妥協点」ではなく、「落としどころ」。

大切にしていきたいポイントです。

 - 未分類

  関連記事

no image
「好き嫌い」と「興味」は別物です。

大学のようなところで教えていると、 生徒たちに学んでほしい歌、教材にふさわしい曲 …

no image
ことはじめは手帳と日記を書くことから

遅ればせながら、新年おめでとうございます。 ことはじめは1年の目標、ゴール、おお …

no image
発声のためのベスト・バランス

マジカルトレーニングラボの初回カウンセリングでは、 音楽経歴とともに、必ず運動経 …

no image
好きになれないなら、理解しようと努める

「そんな、しょーもない曲ばかり聴いているから、歌がうまくならないんだ!」 ある先 …

no image
孤独を怖れず、自分自身と向き合う。

あっという間に4月。 音大の新学期が始まりました。 キラキラと目を輝かせている新 …

本番に強くなるマジックワード!?

「あんなにリハーサルうまく行ったのに・・・」 「どうして本番になると、いつもボロ …

no image
解剖学の本から『笑筋』が消える日?

うまく笑えない子が増えている。 「にっこり笑って」と言われて、前歯をきらりと見せ …

no image
見せ方のうまい人の共通点

自分をどう見せたいか。どう見せるべきか。 人前に立つときのスタイルは誰もが気にす …

no image
変声期

昨日は12~16才の男の子ばかり、8名のボイトレを担当しました。 17才くらいか …

no image
歌の試験の採点基準って?

学校のようなところで教えていると、試験というものがつきものです。 いわゆる前期試 …