大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「見せ方」にこだわる

      2015/12/20

Honda ZのCMのお仕事で、ZZ topのボーカルレコーディングに立ち会うため、
LAを訪れたときのことです。

商品名を日本人の耳にもわかりやすく発音してもらうため、
ギター&ボーカルのビリー・ギボンズ、
ベース&ボーカルのダスティ・ヒルと共にブースに入り、
一緒にマイクの前に立ちました。

スタジオの中はライトのせいでひどく暑く、
みんな汗びっしょりです。

しばらくすると、マイクが生きていないことをチェックしてから、
ダスティがビリーに耳打ちします。
「暑いなぁ。サングラスと帽子、取りたいね。」

ビリーが声をひそめて返答します。
「カメラが回っているだろう?今はまだダメだよ。」

そして、二人はため息をつきながら、汗をぬぐいました。

ZZtopといえば、長いヒゲとサングラス、そして帽子がトレードマーク。
17808438_s
©Nikolai Kazakov/123RF.COM

自分たちのイメージにあわない写真が一枚でも撮られることは、
けして許されないのです。

ブランドマーク。ロゴマーク。トレードマーク。

音楽家でも、文筆家でも、アーティストでも、
メディアを通じて広く認知されるものには、
必ず、わかりやすい「見せ方のポイント」があります。

そうした見せ方、自分なりのブランドを、試行錯誤しながらも構築していくことは、
一般に認知されていこうとする上で、実に重要なことです。
かつて、そうしたイメージ作りは「スタッフにおまかせ」が主流でした。

専門のスタッフが何人もついて、
服装、髪型、メイクから、話し方、話す内容、パフォーマンスまで、
すべてを作り込んで行くことで、本人とともに「スター」を作っていたのです。

自己発信の時代となった今、
ブランドやイメージは自分自身で構築するものに変わってきたように思います。

どう見せたいか。
どう見せれば目立てるか。
どう見せれば、自分が本当に見せたい部分が際立つか。
どう見せれば、伝わるか。

どんなに伝えたいことも、聞いてくれる人がいなければ、
ひとりごとと変わりません。

どんなに優れたコンテンツも、伝えられなければ、
意味が無いのです。

まず、人の注意を引く。憶えてもらう。
話を、歌を、聞いてもらう。

そのために、まず「見せ方」を磨いてゆく。
人に与えるイメージを作り上げる。

本末転倒と思われるかもしれませんが、
結局人は、興味の持てない人の話は聞きたくない。
その人の作るものにだって、興味を持てないのです。

 

もちろん、聞いてもらってから先は、コンテンツそのものが勝負。
そこを磨き上げて準備するのは、大前提ですけれど。

 - The プロフェッショナル

  関連記事

「歌の表現力」ってなんだ?

表現力と言うことばを聞いたことがあるでしょうか?   「彼はテクニック …

「落としどころ」か?「限界突破」か?

完璧主義というほどではないですが、私はなにかと採点が辛いようで、 生徒やクライア …

「時間を忘れて夢中になる人」だけが、プロフェッショナルとなる

「ボクね、コーヒー飲もうと思って口に入れるでしょ。 で、そのまま機材の調整はじめ …

プロフェッショナルの徹底ピアノ調整!

10月末から1週間ほど休業&家を留守にするということで、 思い切って、ピアノの一 …

準備せよ。そして待て。

道が開けないとき。 ツキがやってこないと感じるとき。 過小評価されていると思える …

「オリジナリティ」ってなんなのよ?

「○○って落語家はすごいんだぞ。 一流と言われた落語家をぜんぶ研究して、 みんな …

「いいもの」と「売れるもの」はイコールではない!?

「どんな仕事でも、結局、営業力だ。」 という意味の言葉を聞いたことがあります。 …

譜面台を立てる時のチェックポイント〜プロローグ〜

こちらのブログで繰り返し語っているように、 「ヴォーカリストたるもの、 人前で歌 …

「違和感」をスルーしない

「違和感」は、ふわっと舞い降りる感覚です。   レコーディング中プレイ …

つぎはぎ、修正、補正だらけの歌に、「パッション」は宿らない!

「1回しか歌わないわよ」   レコーディングのとき、そう言って、本当に …