大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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無責任なコメントに心乱されない

   

まだ学生の頃だったでしょうか。
通りがかりの野外ステージでやっていた、公開オーディションのようなイベントを、
興味本位で見たことがあります。

〇〇レコード会社のディレクターとか、▲▲事務所の社長とか、
何人か審査員がいて、次々、登場するシンガーたちの歌に、
コメントをしていました。

イベントも中盤にさしかかった頃でしょうか。
短く刈り込んだ髪を明るい色に染め、レザージャケットに身を包んだ、
ボーイッシュな女性がステージに登場し、
アコギを弾きながら、歌謡ロックのようなオリジナルを歌いました。

「矢沢永吉さんに憧れて歌をはじめました。
女性版、えーちゃんみたいになりたいんです。」

目をキラキラと輝かせて、そう語る女性に、
若いディレクターが手を上げてこう言ったのです。

「君、演歌歌う気ない?
なんか、演歌が向いていると思うんだよね〜」

その時感じた猛烈な違和感と、
その女性の当惑したような顔が今でも忘れられない光景として、
脳裏に焼き付いています。

以来、自分自身の体験も含め、
似たような話を数限りなく聞いてきました。

「椎名林檎が大好きなのに、君の声はROCK向けじゃないから、
ジャズを歌えと言われた。」

「R&Bなんか売れないから、とりあえず売れ線の歌謡曲を歌えと言われた」

「君の書くポップスはぱっとしないから、シンガーソングライターじゃなく、
アイドルユニットをやれといわれた」

・・・etc.etc….
どんな小さなチャンスでもものにしたい若者たちの心は、
そんなことばに揺れ動きます。

事務所に入りたい。
デビューしたい。
売れたい。
評価されたい。
注目されたい。

そのためには、どんなことだってやってやるとばかりに、
言われるままに、芸風を変え、ルックスを変え、
やがて、自分が本当は何をしたいのか、
何をすべきなのか見失ってしまうのです。

もちろん、九分九厘うまくいきません。

寝る間も惜しんで、
ジャズや歌謡曲や演歌に取り組んでいる人がいるというのに、
「とりあえず、言われたからやってみる」なんて、
中途半端な気持ちで、その道に入れば、惨敗は目に見えています。

では、「変われ」「変えろ」と言ったオトナたちは、
責任を取ってくれたでしょうか?

答えはNOです。

そうしたオトナたちの9割が、いや、もっと多いかもしれませんが、
アーティスト本人の資質や志など無関係に、
単なる思いつきで、
もしくは、とりあえず何か言わなくちゃいけないから、
もしくは、まわりへのパフォーマンスとして、
無責任にコメントしています。

10人いれば、10人言うことが違う。
ひどい人は、会う度に言うことが違う。

そうした、多くのことばは、
「こんな風に思うオトナもいるのね」と、
ありがたく受け流しておけばいいのです。
本当に聞かなくてはいけないのは、自分の声。

そして、全面的に責任を取る覚悟の上で意見してくれる人や、
この人を信頼してついていこうと、心から思える人のことばだけ。

お金のため、事務所に入るため、
気に入られるため・・・そんなショボイ目的のために、
自分自身の軸を見失ってうろうろしてしまえば、
より回り道をするだけです。

「成功するために」と自分自身を殺して、
つらいことも耐えに耐えて、誰かの言うことを聞けば、
成功しなかったとき、他人のせいにしたくなります。
つらかった日々を後悔します。

自分の思うまま、大好きでどきどきする音楽をやっていれば、
例え、うまくいかなくても納得できるはずです。

人は、本当に好きなことしか一所懸命できない。
そして、一所懸命できることでしか成功しない。

どんな仕事にも共通のことばだと思います。

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