大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「私の歌って、どうですか?」

   

「自分の歌ってどうなんだろう?」

歌う人誰もが一番知りたいのってそこなんだなと、あらためて考えています。

あれも歌えない、これも苦手という時期は、ひたすら歌えるようになるまで練習をすればいいわけだけど、歌える曲も増えて来て、いざ人に聞いてもらいたいと思ったら、真っ先に気になるのが自分の歌のレベル。
平たく言えば、人には自分の歌がどう聞こえるのか、ということ。

プロアマ問わず、これが全く気にならないという人の方が珍しいでしょう。

こんな時仲のよい友だちは、とりあえず勇気づけてくれるという意味ではありがたい存在ですが、当てになるかというとそうでもない。
なにしろ友だちですから、がんばっていることを応援したい、こちらをいい気分にしたいという気持ちが少なからずあるからです。

家族はもっと当てになりません。
ポジティブ系の家族は、日頃のがんばりを見ているだけに、ちょっとうまくなっただけで感動するし、欲目も少なからずあります。
一方ネガティブ系の家族は、勝手に感情移入して恥ずかしがったり、「いつまでそんなことやってるんだ?」などとドリームキラー的な発言をしたりします。

応援してくれる人がまわりにいるのは心強いですし、自信にもなりますが、それだけでは「私の歌ってどうなの?」という不安を払拭する材料にはなりません。

スクールやレッスンなどに通う余裕があれば、それが一番でしょうが、なかなかそうも行かない時、頼りになるのは歌のサークルやバンドの仲間です。
お互いに、切磋琢磨できる関係性がつくれたら最高です。

ただし、ここでは、どんなコミュニティに属するかが重要です。
こんなところで評価されても…という、いびつな気持ちで参加しても意味はありませんし、猿山のボス的な存在のヒトに、価値観を押しつけられて、自己肯定感をメタメタにされる、なんてこともあり得ます。

自分が尊敬できると感じる人や、心からうまいなぁと思える人がたくさんいる、パワフルなコミュニティに参加することが大切です。

また、プロの歌い手やベテランミュージシャンの前で歌う機会があると、なにかしらことばをかけて欲しいと張り切るものですが、過度な期待は禁物です。

そもそも、プロって、「うまい」って誉めないもの。
「うまいね」は誉めことばじゃないし、そもそも人様に「うまいね」なんて声をかけるのは、上から目線で居心地が悪い。

頼まれてもいないのにアドバイスしたがる人も中にはいますが、ハッキリいって、そんな場でいきなり「ピッチ悪いね」とか「もっとこういう曲歌った方がいいよ」みたいなことを言い出す人は、ちょっとセンスを疑います(けっこういます)。

一方、ライブが終わった後とかに「自分どうでしたか」などといきなりアドバイスを求める人も、ほんっとによくいます。
これ、聞かれた方は内心(え〜、聞いてないよ!)となりかねず、困らせてしまうので、注意が必要です。

その人も同じステージに乗っていたら、歌っているこちらのことより、自分のプレイや歌の評価の方が気になります。
やっている最中は自分のことに夢中で他の人の歌なんかたいして集中して聞いてないということも、ほんっとに多々あります。

ちゃんと聞いてくれていたはずなのに、声をかけてもらえなかったら、まだまだ感動させられるレベルではなかったのだなと真摯に受けとめればよいのです。

 

そもそも初対面でいきなりアドバイスをもらおうとガツガツするのはやめた方がいい。
そういう人の意見をもらいたいなら、まずはその人と人間的に近づいて、自分に目を向けてもらえるようになることが第一段階。自然に相手の口が開くのを待つ。
真のアドバイスが欲しいなら、これしかありません。

他人の評価が自分に自信をくれます。
そして、自信のある人ほど、評価が高まります。

よきタイミングでよき評価を得るため、出逢いをくふうするのも、上達のための重要なポイントですね。


 

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