大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「人前で歌うのが怖い」?

   

人前で歌う事に恐れを感じる人が多いのは、なにも日本人だけの話ではありません。

 

海外で、音楽や歌の話で盛り上がって、
「あなたも歌うの?」という質問をすると、しめし合わせたように、
“Only in the shower”(シャワーの中でだけね)という答えが帰ってきます。

「うまい人の歌を聴いて、とてもあんな風に歌えないと思った。」
「自分は、歌うよりも聞く方が楽しい。」などというのは、
かなりポジティブな理由の方で、

先日も「いいおとながトラウマと向き合う」というポストでご紹介したような、
かなり根深いトラウマが理由という場合もあります。

「自分は音痴だ」
「自分の声が嫌いだ」
「自分は悪声だ」
「自分には歌は歌えない」
・・・そんな風に思い込んでいる人の、なんと多いことか。
そもそも、歌いたくなるのは、歌うと楽しいから、気持ちよくなるから。
1人で歌うのも楽しいけど、みんなで歌えばもっと楽しい。もっと気持ちいい。
気持ちいいことや楽しいことに、ブレーキをかけてしまうなんて、
なんとももったいないことです。
歌の起源は、言語の起源と同じ頃なのではないかといわれています。
まだことばが乏しくて、ことばだけでは伝え切れなくて、
ヒトの先祖は、動物たちのように、
声の節回しで相手にさまざまなことを伝えたかもしれません。
木を叩いたり、石を叩いたりしながら、
最初の頃は、インディアンの「ほうぉうぉうぉうぉ」や、
原始人の「うっほ、うっほ」に毛の生えたようなものだったかもしれません。

 

さて、ここで、気づいて欲しいことがあります。
「はじめに楽器ありき」ではなく、「はじめに歌ありき」であったということ。
音階も、ピッチも、もちろん、楽譜もリズムもなんにもなかったのです。
それらは全部後付け。
後世の人が考えた、
「音楽を、よりたくさんの人とわかちあうためのルール」です。

 

現在、ポピュラーの世界では、
楽器のチューニングと言えば「平均律」が使われるのが一般的ですが、
このルールが定着してから、まだ、たかだか200年程度。
実際に、世界各国の音楽は、今でも、
ユニークなチューニングで、自由な音階で作られています。

(興味のある方は、専門書を読んでみてくださいね。)

 

そんな、
「音楽を、よりたくさんの人とわかちあうためのルール」が、
人の心を傷つけ、トラウマでがんじがらめにし、
音楽をわかちあうどころか、
「歌いたい」という動物みんなが持っている欲望にブレーキをかけている。
なんか、変じゃないですか???

 

いつも「ピッチだ!」「音程だ!」と言っている私が、
こんな話をするのは違和感があるでしょうか?
音楽のプロや学生のように、
ルールに則って音楽を演奏することを学び、
それを仕事にする人たちなら、ピッチや音程にシビアになるのは当然のことです。

 

しかし、一般の人が、「歌いたい!」にブレーキをかける必要は、
絶対にありません。
気持ちいいから歌いたい。
歌ったら、もっと気持ちいい。

一緒にいるから歌いたい。
歌ったら、もっとひとつになれる。

 

こんなにシンプルなことはないはずです。
昔、こんなことがありました。

 

さまざまなところで書いているように、アマチュア〜駆け出し時代、私は、
「MISUMIは音程が悪い」「音痴なんじゃないの?」と本当によく言われました。
「ライブはいいんだけど、スタジオは無理だね」
そんな風に言われて、泣きながらピッチを修正する練習を、
絶望的に繰り返す日々もありました。

 

それはプロになるための修行。
言ってくれた人たち、直るまで言い続けてくれた人たちに、
今でも、心から感謝しています。
しかし!しかしです。
あるとき、本番前の楽屋で、鏡に向かって、必死にお化粧をしていた時のことです。
コーラスの相棒だったYちゃんがいきなり、私の背後からこう言いました。
「ねぇ。その音痴な歌、やめてくれないかなぁ。」
「は?」
私はこどもの頃から、気分がよくなると、無意識に歌うクセがあります。
その日も気分は上々。楽しくお化粧していたので、思わず鼻歌が出たのでしょう。
「MISUMIさあ、前から言おうと思ってたんだけど、
普段からそんな風に音痴に歌ってるから、いつまでもピッチよくなんないんじゃない?」
「・・・・・」

 

当時、本気でピッチに悩んでいた私は、
そのまま気分が落ち込んで、黙り込みました。
しかし、今なら、ハッキリ言えます。
「余計なお世話!」
気分がいいから歌うのです。

 

どんなチューニングだって、どんな音程だって、すべてマイルール。
誰に迷惑をかけるのでもない。
近くにいて、その歌を耳にして、
「わ。音痴、気持ち悪い。」と思ってしまうなら、聞かなければよろしい。
もしくは、「ごめん。ちょっと静かにしてくれる?」でいいじゃないですか?
ちなみに、その時の憂さ晴らしではないですが、
私は、今でも時々、
1人でいるときに、密かに、信じられないくらい音痴に歌を歌うのが好きです(^^)
閑話休題。
すべての歌の決まり事は、もっと歌を楽しむためにある。
決まり事のせいで、歌うことが楽しくなくなるなら、
決まり事なんか、全部忘れてしまえばいい。
それがはじめの一歩です。
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7月28日(火)に吉祥寺シルバーエレファントで行う、
MISUMI&TAKUMA『The ワークショップ Show』

第一回「いいおとながトラウマに向き合う」では、
「歌うのが怖い」を吹き飛ばす、ワークをやる予定です。

興味のある方は是非。詳しくはこちら

 - Life, 声のはなし

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