大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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音楽のプロは、まだまだ肩身が狭いのだ。

      2017/10/10

プロのボーカリスト、ミュージシャンとひとことで言っても、
その収入、グレード、仕事内容はさまざまです。

では、なにをもってプロと呼ぶかといえば、
「歌うことでお金をもらう(もらった)ことがある」という、ゆるい基準から、
「とりあえず、歌の仕事で食べている」と収入面を反映した基準、
そして、「業界で『プロ』と認められている」という、
ちょっと高めの基準まで、
こちらもさまざま。

何を仕事にしているかなんて、自分で決めればいいという最近の時流に乗るなら、
言ったもん勝ち。
資格も、組織も必要のない仕事ですから、
「自分のことをプロと言った人がプロ」ということで、いいのかもしれません。

しかし、世間の評価ともなると全然別の話です。

世間の人というのははっきりしたもので、
テレビに出たり、雑誌などのメディアで見かけたり、
大きなホールでコンサートをやったりしない限り、
なかなかプロの歌手、ミュージシャンとは認識してくれません。

どれだけメジャーな、素晴らしい作品のクレジットに名前を連ねるより、
ライブシーンでキャーキャー言われるより、
たとえちらりとでも、テレビに映る方が、世間的には説得力がある。

世の中のミュージシャン、ボーカリストなどという職業に対する認識は、
悲しいくらい低いものです。

私も若き頃、「サポートのお仕事でツアーを回っている」と言ったら、
「そういう仕事っていくら位払うとやらせてもらえるの?」と、
いかにも見下したように言われた経験があります。

また、さんざん興味深げに、私の仕事の話を聞いた後で、
母に向かって「そんな仕事してんじゃ、親もいつまでも大変だねぇ」と、
同情のことばをかけた人もいました。

すでにプロとしてメジャーな仕事をバンバンこなし、
業界でもそれなりに認められて、いい感じで稼いでいた頃のことです。
「あんたの日給より、私の時給の方が高いっつ〜の!」と、
心の中で激しく悪態をついたものですが、
所詮、何を言っても、一般の人にとっては負け犬の遠吠え。
無名とはこういうことかと噛みしめました。

とはいえ、さんざん私の武勇伝を聞き及んでいるはずの親戚に、会食の席で、
「ウチにもMISUMIみたいに好きなことやってる劇団員がバイトに来てるよ。
いろいろ大変みたいだよなぁ。」
と言われたときには、さすがにガックリ来ましたが。。。

まだまだ、世間はそんなもんです。
好きなことをやってる人=食えない人、みたいな、昭和的発想の名残もあります。

「ミュージシャンになりたいと言ったら、親に猛反対された」、
「結婚したいといったら、相手の父親に、
『まずは就職してから出直せ』と言われた」というのも、
仕方ないと言えば仕方ないお話です。

実はこうした、有名無名、メジャーマイナー、
稼ぎ、実力、キャリアによる格付け、ランク付けは、
ボーカリスト、ミュージシャンの世界には一生ついて回るもの。

なんと言われようと、めげずに負けずに戦い続けられるか、
それなりに気楽に楽しくやっていく道を選ぶかで、
そこからの音楽人生が大きく変わっていく、大切なポイントでもあります。

そんな厳しい世界で苦しむのも、
お気楽ながら低所得であえぐのも無理、という人は、
きちんと仕事について、音楽は趣味でやる方が無難ともいえます。

 - 音楽人キャリア・サバイバル, 音楽業界・お金の話

Comment

  1. TAKA より:

    一つ言えるのは、音楽業界の外にいる人は、音楽業界の「稼ぐ仕組み」がわからないわけです。「稼ぎの安定性」もわからない。

    単に「食える、食えない」じゃないと思います。「無名か、名が売れているか」ってことでもない。
    「将来に向かって、安定して食い続けていけるか?」とか「将来に向かって、収入が増えていくか?」ってことも含まれていて、音楽業界を知らない人には、そのあたりがまったくわからない。

    仮に「あなたの日給より、自分の時給の方が遥かに高い」と言ってみたところで、サラリーマンと比べている人には説得力が無いことでしょう。

    音楽業界の外では、「日給」とか「時給」で考えたりしないです。「年収」とか「生涯年収」で考えるんです。

    サラリーマンはクビにならない限りは、定年まで安定的に収入があり、年齢と共に収入が増え(現代においては必ずしもそうではないですが)、退職金ももらえて、年金も確保できたり。自分だけでなく、家族も安定的に養っていけるとか。

    それに堂々対抗できるだけの説明ができない限り、「不安定だ」「心配だ」「無責任だ」と言われてしまう。だから「結婚したい」と言って、相手の父親から「就職して出直せ」と言われるわけです。その方が、大切な娘の人生の保障になるんだから、当然ですね。

    「肩身が狭い」と言うよりも、もしこの業界の人間として少しでも悔しい気持ちがあるならば、音楽業界の外の人にもわかるように、説得力が出るように、「ビジネスモデル」をしっかりさせないといけないんですよ。

    どうやって稼ぐのか?どのぐらい稼げるのか?いつまで稼げるのか?サラリーマン並みに60歳まで安定して収入を確保できるのか?収入の増やし方は?サラリーマンが多少なりとも会社から与えられている万が一の場合の保障に代わりものは何があるのか?・・・・・等々。

    真剣に、音楽をビジネスサイドから考えて、「こういうビジネスモデルだから心配ないのだ」と言えるようにしていかないと、この業界に生きる人は、未来永劫「肩身が狭いよ」で終わってしまいます。

    昔売れたミュージシャンだった人で、ライヴハウス経営をやっている人がいたりするじゃないですか?
    固定客を確保して、一見のお客さんも大切にして、安定的に一定の客入りが確保できるようになると、ビジネスとして安定しますね。すると音楽業界の外からも「なるほど」と言ってもらえるようになるわけです。

    そういう方々は、真剣に「ビジネス」を考えているし、日々努力し実践してますよ。バックに会社がついておらず、自分しか頼りにできない分、真剣勝負の日々ですよね。

    音楽で生きていくことを真剣に希望する生徒さんには、ビジネスを学ばせてあげることも重要じゃないかと思います。「苦労に耐えられるか否か?」ってことじゃなくて。

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