大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

Obsession〜頭にこびりついて離れないもの〜

   

プロとアマチュアの分岐点はどこにあるんでしょう?

何かが好きで、夢中になることは、どんな子どもにも起こり得ます。

テレビを見て、歌手に憧れた。
野球チームに入ったら、うまくなりたくてたまらなくなった。
歴史のマンガを読んで、歴史にハマった・・・・

その時点では、どんな子どもの実力もたいして変わらないものです。

もちろん、多少の素養があるから、そのものに惹きつけられることが多いので、
他の子と比べて著しくその能力が劣ることはありません。
しかし、はじめた瞬間から周囲が驚くほどの才能を発揮する子どもなんて、
極極一部の大天才しかいないでしょう。

この、どんぐりの背比べ状態から、徐々に周囲と差がついていくかどうかは、
単なる「好き」が「オブセッション(Obsession)」、
つまり「頭にこびりついて離れない状態」に変わるかどうかにかかっています。

そもそも、何かをはじめる、続けることには大小さまざまな障害がついてまわります。

なにかを極め、プロになった人たちと話していると、
その尋常じゃないオブセッションに笑ってしまうこともあるくらいです。

ギターリストのH氏は、高校時代、エレキギターを買うために、毎朝新聞配達をしたといいます。

また、当時はネットどころか、
テレビなどで外タレ(外国人ミュージシャン)の演奏を見る機会もなかったため、
ギターの奏法に関する情報が圧倒的に不足していました。
そこで、音楽雑誌であこがれのギターリストの写真をみつけ、
そのたった一枚の写真を分析し、創造力と推察力を駆使して、
オープンチューニングというものの存在を、文字通り「発見した」そうです。

また、S氏は、生まれた街に、バンドのリハーサルをするようなスタジオがなかったため、
近隣のビルの屋上を借り、毎日リヤカーで機材を運搬しては練習していたといいます。

お気に入りのギターのフレーズがどうしても聞き取れなくて、
レコードの溝がすり減ってしまった、などという話は、プロならごくあたりまえにする話です。

私自身、1枚のアルバムを最初から最後まで、完璧に歌えるようになるまでの約1年間、
毎晩アルバム1枚をなんどもかけ、歌い続けたという経験があります。
結局、その経験がさらに自分のオブセッションに火をつけ、
その後もありとあらゆるアルバムを全曲、完コピしました。

ミュージシャンだけではありません。

中学時代からビジネス書が大好きで、そのたぐいの本を見かけるたびに、
勉強そっちのけで、すべて読みあさったという、ビジネス書のカリスマがいます。

雑誌でも、テレビでも、書籍でも、紹介される、ありとあらゆるお片付けの方法を
すべて試したという、お片付けのカリスマもいます。

ここで大事な事は、みんな誰に頼まれたわけでも、命じられたわけでもない。
自分のオブセッションに突き動かされ、「やらずにいられなかった」のです。

現代の子どもは情報が多く、環境的にも恵まれすぎているから、
なかなかレベルがあがらないといわれますが、私はそうではないと思っています。

情報が多く、環境に恵まれているから、それほど真剣にやりたいと思わなくても、
お手軽にはじめられる。
誰でもそこそこのレベルに到達できる、というだけです。

違いはその先にあります。

オブセッションに心奪われたら、お手軽に手に入る二次情報では飽き足らず、
自分の五感を使って、片っ端から検証したくなります。

どんなに環境的に恵まれ、次々と何かを与えてくれるおとなが周囲にいたとしても、
そんなことでは追いつかないくらいのオブセッションに次から次へと襲われ、
いてもたってもいられなくなるはずなのです。

時代のせいで、本物のプロフェッショナルが育たないのではない。

自分のオブセッションを徹底的に追求できるほどの、
情熱を持ち合わせている人間の比率というのは、いつの時代でも変わらないだけなのです。

 - 未分類

  関連記事

「あきらめない」というチカラ

年越しに寄せて。 今年、私が学んだ一番大切なこと。 それは、「あきらめない」とい …

no image
歌の試験の採点基準って?

学校のようなところで教えていると、試験というものがつきものです。 いわゆる前期試 …

no image
“I know what I’m doing”

「今の、どうでした?できてませんでした?」 そんな質問を繰り返す子に限って、レッ …

no image
「からだレベル」でグルーブを感じる

8ビートは4分の4拍子の8分音符が8つで、16ビートはその倍で・・・ アクセント …

うまく行かないときは、自分自身の棚卸しをする

世の中は結構不公平にできています。 必死に必死にがんばっていても、 なかなか認め …

本番に強くなるマジックワード!?

「あんなにリハーサルうまく行ったのに・・・」 「どうして本番になると、いつもボロ …

no image
孤独を怖れず、自分自身と向き合う。

あっという間に4月。 音大の新学期が始まりました。 キラキラと目を輝かせている新 …

no image
平均的な舌って、なに?

誰しも、生まれながらの自分のカラダが、 自分にとってのスタンダード=標準規格です …

no image
ことはじめは手帳と日記を書くことから

遅ればせながら、新年おめでとうございます。 ことはじめは1年の目標、ゴール、おお …

no image
トレーニングの最大の難関は「はじめる」

どんなトレーニングでも、続ければ必ず結果が出ます。 それがトレーニングの本質とい …