大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「そんなの歌ってても売れない」!?

   

時々、不思議な質問を受けます。

先日のキャサリン(仮名)の質問がまさにそれ。

「私、ジャズとか歌った方がいいんですかね?」

「は?ごめん。言ってる意味がわからないんだけど?」

「このあいだ、よく出させてもらってるライブハウスの社長さんに、
『キャサリンはああいうロックみたいなのより、
もっとジャズとか歌った方がいいね』って言われちゃったんです。」

出た出た。

こういう話を聞くたびに、またかと思ってしまいます。

そういう音楽は売れないから、もっと売れ線やった方がいいとか。
キミの声はR&Bには向いてないから、ポップス歌った方がいいとか。
まぁ、他人というのは、わかったようなことを言いたいものです。

相手が、音楽的にも人間的にも全面的に信頼できる人で、
自分の発言に対して、きちんと責任を取ってくれそうな場合以外、
そんな意見は「なるほど、そういう意見もあるのね」程度に、
軽く受け流しておくのが賢明です。

「そもそもさぁ、世の中には子どもの頃からジャズが大好きで、
何年も何年も、寝ても覚めてもジャズのことしか考えられないくらい、
必死でジャズをやっている人が死ぬほどいるのに、
『ジャズとかやった方がいいんですかね』レベルで、対抗できると思うなんて、
おめでたすぎるでしょ?」

若かりし頃、そうした無責任な発言にさんざん乙女心を弄ばれてきた私は、
人一倍、この手の話に腹が立つので、ついつい口調が荒くなります。
「『そんなことやってても売れないよ』くらい、愛のない発言、ないと思わない?
そんなこと断言できるの神様だけでしょ?お前は神か?って話でしょ?」

「『これが売れる』とか言われて、言いなりになって、
やりたくもないこと何年もやったあげく、鳴かず飛ばずだったときに、
一体全体誰が責任取ってくれるの?
その時、キャサリンは、誰を恨むの?
人間は、本当に好きで好きでたまらないことしか一所懸命できない。
「好き」のレベルで負けるなら、どんなにがんばったって、絶対に勝てない。
結局さ、どんなにつらくても、自分の道は自分自身で選び取るしかないのよ。」

絶対売れないと言われても、その道を貫き通して、やがてブレイクした人もいます。
売れなくても、好きなことだけをハッピーにやりたいんだと、
悟りの境地に入った人もいます。
大好きな音楽で何の苦労もなくブレイクして、
幸せに活動を続けるラッキーな人もいれば、
「売れ線」を追求して、どんなに嫌なことも売れるまでの我慢と耐えて、
結局、鳴かず飛ばずのまま業界を去って行った人もたくさんいます。

運命は自分で選べないのだとしても、自分の未来への地図は自分で描きたい。
それが、少なくとも、納得できる生き方というものだと、私は信じています。

 - 未分類

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


  関連記事

no image
技術によって人間は進歩するのか、退化するのか?

技術によって人間は進歩するのか、退化するのか? はじめてレコーディングのお仕事を …

no image
「点ではなく面で考える」

最近、心密かに想いを寄せている佐藤オオキさん。 昨年、オオキさんが出演していた …

言い訳のない歌を歌う~Singer’s Tips #24~

「今日はちょっと調子悪くて」 「最近ちょっと歌えてなかったから」 「自分、まだま …

no image
ノドだけ労わりゃいいってもんじゃないので。

秋はスケジュールの動くときです。 勝負をかける大きなイベントを秋に持ってくるアー …

肉体は変化する

ずいぶん前のことになります。 クラプトンのコンサートのチケットがあるからと、 友 …

no image
「話すためのボイトレって、何するんですか?」

「話すためのボイトレって、一体何するんですか?」 一般向けのボイトレセミナーや講 …

no image
「知は力」・・・発声の科学を学ぶ意味

歌の上達の一番の早道は、 なんといっても優れた歌い手を徹底的に研究し、真似てみる …

no image
声の印象を変える?

声は人の印象を決める上で、とても大切な役割をしています。 ある研究によれば、人は …

no image
「好き嫌い」と「興味」は別物です。

大学のようなところで教えていると、 生徒たちに学んでほしい歌、教材にふさわしい曲 …

no image
「お前よぉ、いい気になれよ」

かつてツアーのお仕事をした男性タレントのアンディーさん(仮名)が、 打ち上げの席 …