大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

安定したパフォーマンスのカギは「微調整」 

   

「自分、毎日同じようにストレッチして、声出しするんすけど、
なっかなか思ったように声が安定しないんすよ。
迷わず、ポンと鳴らせる時もあれば、
どうやっても思ったように響かないときもあって。
何が原因なんすかね〜?」

マジトレには時折、”アスリート系”アーティスト(と私が勝手に呼んでいる)が
レッスンにやってきます。
運動能力が非常に高く、学生時代は音楽よりもむしろスポーツに夢中になった、
特定のスポーツでそれなりの成績を残してきた子たちです。

陸上、球技、武道、体操、水泳などなど、競技はさまざまですが、
アスリート系に共通の特徴は筋感覚、軸感覚が優れていること。
そして、そして非常に熱心に練習に取り組むこと。

つまり、ありがたいことに、
ベーシックトレーニングが面白いようにどんどん消化されていくのです。

ハリー(仮名)もそんなアスリート系のアーティストのひとり。
練習熱心で、毎日欠かさず一連のトレーニングを行っているようです。
正しいトレーニングを続ければ、結果は確実についてくると知っているのです。

冒頭の台詞は、そうやって毎日コンスタントに練習しているからこそ出てくる疑問です。

「なにが正しいのか、だんだんわかんなくなってきちゃいました・・・」

ここで、反対に、運動音痴の私からハリーに質問します。

「ねぇ。ハリー、バスケのフリースローの成功率ってどのくらいなの?
100発100中ってわけじゃないの?」

「え?・・・いやぁ、とんでもない。
プロのバスケット選手でもフリースローで成功率が7割越えたら、
すごいって言われますね。」

「相手がいるスポーツならともかく、フリースローだの、ボーリングだのみたいに、
常に同じコンディションでやるはずのことなのに、
毎回同じ結果が出せないのはなんでなの?」

「それは、人間のカラダのコンディションが毎日微妙に違うからで・・・」
そこまで言ってハリーは気づいたようです。「なるほど。そういうことっすか・・・」

そう。そういうことなんす。毎日微妙に違うカラダのコンディション。
安静時の呼吸の量や圧力、スピードも毎日微妙に違います。
全身の緊張具合も違う。もちろん、声帯や声道の緊張具合も振動具合も違います。

つまり、声は生き物。
毎日違うのが当たり前なんです。

自分のコンディションの微妙な変化を敏感に察知して、
最適なパフォーマンスができるように微調整を加えること。
アスリートでも、ミュージシャンでも、
安定したパフォーマンスのできるプロフェッショナルには不可欠のスキルです。まぁ、こんな禅問答のような会話でさらりとすべてわかってくれて、
結果に結びつけられるのは、
ほんと、よほど気合いの入ったヤツか、アスリート系だけなんすけどね。

 - 未分類

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


  関連記事

no image
見せ方のうまい人の共通点

自分をどう見せたいか。どう見せるべきか。 人前に立つときのスタイルは誰もが気にす …

no image
「知は力」・・・発声の科学を学ぶ意味

歌の上達の一番の早道は、 なんといっても優れた歌い手を徹底的に研究し、真似てみる …

ぶっ壊すことを恐れない。

CMの作詞のお仕事を依頼されたときのことです。 某大企業のCMの歌詞を書かせてい …

言い訳のない歌を歌う~Singer’s Tips #24~

「今日はちょっと調子悪くて」 「最近ちょっと歌えてなかったから」 「自分、まだま …

no image
「おかあさん声」の主は・・・

昨日、近くのストアにお買い物に行ったときのとこです。 商品に見入る私の横で、親子 …

no image
1年前の、1年後の自分との距離感。

1年という時間はあきれるほど速く流れて行きます。 その速度は生きた年月に比例して …

no image
歌の試験の採点基準って?

学校のようなところで教えていると、試験というものがつきものです。 いわゆる前期試 …

no image
芸事や勉強を長続きさせる秘訣

芸事や勉強は恋愛と同じです。 どんなに,「ためになるから」、「将来、役に立つから …

no image
疑問、質問、聞きたい話、ありますか?

脳内にどんどんわき上がってくる、ことばの断捨離の目的で、 ブログを可能な限り毎日 …

no image
発声のためのベスト・バランス

マジカルトレーニングラボの初回カウンセリングでは、 音楽経歴とともに、必ず運動経 …