無責任なコメントに心乱されない
2024/07/02
まだ学生の頃だったか。
たまたま通りがかった野外ステージで、公開オーディションのようなイベントをやっていて、興味本位で見たことがあります。
〇〇レコード会社のディレクターとか、▲▲事務所の社長とか、何人か審査員がいて、次々、登場するシンガーたちの歌に、コメントをしていました。
イベントも中盤にさしかかった頃でしょうか。
短く刈り込んだ髪を明るい色に染め、レザージャケットに身を包んだ、ボーイッシュな女性がステージに登場し、アコギを弾きながら、歌謡ロックのようなオリジナルを歌いました。
「矢沢永吉さんに憧れて歌をはじめました。
女性版、えーちゃんみたいになりたいんです。」
目をキラキラと輝かせて、そう語る女性に、若いディレクターが手を上げてこう言ったのです。
「君、演歌歌う気ない?
なんか、演歌が向いていると思うんだよね〜」
その時感じた猛烈な違和感と、その女性の当惑したような顔が今でも忘れられない光景として、脳裏に焼き付いています。
以来、自分自身の体験も含め、似たような話を数限りなく聞いてきました。
「椎名林檎が大好きなのに、君の声はROCK向けじゃないから、ジャズを歌えと言われた。」
「R&Bなんか売れないから、とりあえず売れ線の歌謡曲を歌えと言われた」
「君の書くポップスはぱっとしないから、シンガーソングライターじゃなく、アイドルユニットをやれといわれた」
・・・etc.etc….
どんな小さなチャンスでもものにしたい若者たちの心は、そんなことばに揺れ動きます。
事務所に入りたい。
デビューしたい。
売れたい。
評価されたい。
注目されたい。
そのためには、どんなことだってやってやるとばかりに、言われるままに、芸風を変え、ルックスを変え、やがて、自分が本当は何をしたいのか、何をすべきなのか見失ってしまうのです。
もちろん、九分九厘うまくいきません。
寝る間も惜しんで、ジャズや歌謡曲や演歌に取り組んでいる人がいるというのに、「とりあえず、言われたからやってみる」なんて、中途半端な気持ちで、その道に入れば、惨敗は目に見えています。
では、「変われ」「変えろ」と言ったオトナたちは、責任を取ってくれたでしょうか?
答えはNOです。
そうしたオトナたちの9割が、いや、もっと多いかもしれませんが、アーティスト本人の資質や志など無関係に、単なる思いつきで、もしくは、とりあえず何か言わなくちゃいけないから、もしくは、まわりへのパフォーマンスとして、無責任にコメントしています。
10人いれば、10人言うことが違う。
ひどい人は、会うたびに言うことが違う。
そうした、多くのことばは、「こんな風に思うオトナもいるのね」と、ありがたく受け流しておけばいいのです。
本当に聞かなくてはいけないのは、自分の声。
そして、全面的に責任を取る覚悟の上で意見してくれる人や、この人を信頼してついていこうと、心から思える人のことばだけ。
お金のため、事務所に入るため、気に入られるため・・・そんなショボイ目的のために、自分自身の軸を見失ってうろうろしてしまえば、より回り道をするだけです。
「成功するために」と自分自身を殺して、つらいことも耐えに耐えて、誰かの言うことを聞けば、
成功しなかったとき、他人のせいにしたくなります。
つらかった日々を後悔します。
自分の思うまま、大好きでどきどきする音楽をやっていれば、例え、うまくいかなくても納得できるはずです。
人は、本当に好きなことしか一所懸命できない。
そして、一所懸命できることでしか成功しない。
どんな仕事にも共通のことばだと思います。
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