大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

歌と「向いてない」とクソまずいケーキ

   

「歌がうまくなりたいんですけど、なにをしたらいいですか?」
と質問されると、反射的に、
「今、どんなことをしていますか?」と聞き返します。

単に、その人がどんな風に歌に取り組んでいるのかわからないと、
アドバイスのしようがないからなんですが、
こう聞くと、必ずと言っていいほど、質問した相手はひるみます。
「あ、いや、特別なんにもしていないんですけど・・・」。

相手がアーティストや学生なら、
「それって、ホントにうまくなりたいのかな?」などと、
思わず突っ込んでしまう場面ですが、
まぁ、おとなの方が相手だとそうはいきません。

そこで、質問の方向を変えてみます。

「どんな歌が好きなんですか?」
そういうと、みなさん、顔を輝かせて、大好きなアーティストたちの名前を挙げるのですが、
「でも・・・」と、そのまま話を続けます。
「自分には高すぎる(低すぎる)し、自分が歌うには向いていないと思うんです」。

いやいや。取り組んだことがないことを、
向いているとか、向いていないとか、判断してしまうのは、
なんだかもったいなくないか。

歌いたい歌があるなら、歌えるようにくふうすればよろしい。
っていうか、歌えるまで歌ってみればよろしい。

人前で恥をかきたくないのは、誰でもおなじです。
練習しないで簡単に歌える、
「自分に向いている歌」というのを求めてしまう気持ちは、
もちろんわかります。

でも、歌いやすい、すぐに歌える歌を歌っていれば満足できるなら、
そもそも、冒頭の質問は出てこないのじゃないか?
どこかで「もっと」を願う自分がいるのじゃないのか?

 

これって、スポーツとか料理で考えると、実にわかりやすい。

例えば、私、学生時代のクリスマスに、
彼氏に食べてもらいたくて、
生まれて初めてケーキというものを焼きました。
いや、ケーキというものを焼いたつもりでした。

レシピと首っ引きで、粉だらけになって、そりゃもう、
必死でがんばったんですが、できあがったものといえば、
蜂の巣のごとく穴だらけで、その穴にはもれなく粉がつまっている、
ホールケーキの大きさのまずくて焦げ臭いクッキー。。。

大泣きしました(^^)。

あれが、私が生涯、最後につくったケーキです。
もう一生つくらないでしょう。

理由は、そのとんでもない失敗体験がトラウマになったから、
というだけではありません。

つくることが思いの他楽しくなかったのです。
そこからくふうして、うまくなりたいという欲求が湧かなかったんですね。
あーあ、向いてないわ。

それでおしまい。

だから、見事はケーキを焼いてプレゼントしてくれる人に出会ったりすると、
本当に感動します。
そして、自分の生涯たった一度つくった、蜂の巣クッキーの話をして、
「私、お菓子作りは、向いてないんですよね」と言えば、

その人は必ず、「最初は私もそうでしたよ。でもね・・・」と、
美味しいケーキを焼くコツを情熱的に語ってくれるのです。

 

好きだから、やりたいから、
失敗しても、何度もやってみる。
うまくできるまでやってみる。
うまくできる方法を探す。

うまくできるようになるから、
まわりから、才能があるねとか、向いてるね、と言われるようになる。

いや、もう、なんでも、ホントに同じです。

やりたいか、やりたくないか。
好きか、好きじゃないか。

最後は、やっぱりここに行き着くんですよね。

 


 

◆歌う心とカラダに活を入れる2日間。MTLサマースクール2022
リアルとリモート同時開催。

◆公式LINE、はじめました。ご質問やお悩みにもお答えしていきます。
ご登録はこちらから。

毎週月曜発行中!声に関するマニアックな情報やインサイドストーリーをお届けする無料メルマガ『声出していこうっ』。バックナンバーも読めます。

 

 - B面Blog, Life, ある日のレッスンから, 夢を叶える

  関連記事

誰も「いい声」になんか、興味ない。

『アラジンと魔法のランプ』の実写版、 『アラジン』が話題です。 こどもの頃、 3 …

80sを語ったっていいと思う

少し前、学生に「最近どんなの聞いてるの?」と質問したら、 「僕、結構古い音楽が好 …

うっそくっさいブランディングは、いい加減やめよう。

かつて業界では、 ミュージシャンでも、タレントでも、 デビューさせるにあたり、 …

「エアギター」のススメ

ギターリストになりたくて、 明けても暮れても練習していた時代があります。 今やこ …

怖いなら、目をつぶって飛び込め。

人生のターニングポイントとも言うべき、 大きな出逢いや変化には、 ドキドキやワク …

「好き」をどこまでも追いかける。

「好き」という感情くらい強烈なエネルギーを持つものはありません。 どんなに疲れて …

「夢喰って生きられないぞ」

大学3年だったか、それとも4年生だったか。 アルバイトをしていた東京タワーのおみ …

「大学って夢をあきらめるために来るところなんですよね?」

夢と希望に胸を膨らませて日本全国からやってくる学生たち。 入学の時の夢は、 「自 …

「ちゃんと鳴らす」ってなんだ?

こどもの頃、 メトロノームを力まかせに揺り動かして、 振り子のスピードを速くさせ …

だから、嫌いなものは嫌い!

人の価値観はそれぞれです。 高くても、無理しても、 お気に入りのバッグを買いたい …