最後は「自分の声」を聞くのだ。
「MISUMIサンはね、
もっと、自分じゃ恥ずかしくって赤面するくらい、
下世話な曲を書いた方がいいよ。」
某有名プロデューサーが
私のオリジナル曲を聴いてくれたときの感想です。
「洋楽っぽすぎるんだよね。
カッコよすぎるの。
こういうの、日本じゃ難しいよ。」
あの頃の私が今の私の半分も自分に自信があったら、
「自分がカッコいいと思えないもん世の中に送り出すセンス、
あり得ないわ」
と、シラケたかもしれません。
「今の日本じゃ難しいってことは、ビジネスチャンス?」と、
かえって燃えたかもしれません。
もしかしたら、「やっぱり海外だわ」と、
あっさり、日本を見限ったかもしれません。
しかし、当時の私は、
ヴォーカル力こそ、そこそこ評価されていたものの、
まだまだ自分自身にも、自分のアーティスト力にも、
てんで自信のない、イケてない女。
ご意見いただいたのは、
ご自身もたくさんのヒット曲を書いてきた、
業界ではひとかどのお方。
20年以上経った今でも、
話をしていたときの状況までクリアに思い出せるのですから、
当時の私にとって、
かなりインパクトのあることばだったことは間違いありません。
時は90年代初め。
カラオケ全盛期で、覚えやすい、歌いやすい、わかりやすい、
そんな音楽がチャートにあふれていた時代です。
情熱のおもむくままに書きためた曲たちをデモにして、
会える限りの人たちに配って歩きました。
思い返せば、
「ぶっ飛んでるね。」「面白いね。」
「こういうの、好きなヤツは絶対いるよ」
「このままお皿にしようよ。」
そんな風に評価してくれた人たちも結構いたような気がします。
しかし、自信のなかった私にとっては、
ポジティブなことばより、ネガティブなことばの方が、
影響力があったのでしょう。
「やっぱ日本語じゃなくちゃ」
「売れないもんつくっても、ただの青春記念盤で終わっちゃうからね」
「もっとメジャーっぽい曲書かないとだね〜」
そんなことばたちに流されて、
心から気に入っていた曲たちをそっくりお蔵入りにしたり、
歌詞を全部日本語に書き換えて、
曲の持つ雰囲気をぶち壊してしまったり、
全く違うアレンジを施されて、
曲そのものがすっかり変えられてしまったり。。。
そんなことを繰り返すうちに、
作品づくりに疲弊してしまったのでした。
さて。
では、本当にその時代、
洋楽っぽ過ぎて、カッコよすぎて、わかりにくい音楽は、
世の中に出なかったのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
「洋楽みたいでカッコいいよね〜」
と言われてオリコンナンバー1になった曲だって、
聞けば、何曲もありました。
「時代を先に行きすぎていたんだよね」
といわれた人も、
チャートインこそしなかったものの、
ちゃんと自分の足跡を残しています。
やがて10年も経たないうちに、
英語と日本語の境目のない歌が歌われる時代がやってきます。
そもそも「メジャー」というコンセプトが、
そこまで力を持たなくなる時代もすぐそこまできていました。
時代に媚びず、
人に迎合せず、
好きなことにこだわって、
好きなことを貫いて、
作品を紡いでいくことは、
紡ぎ続けることは、
本当に本当に難しい。
でも、それを最後までやり遂げた人だけが、
見える世界がある。
運命の女神は、きっとそういう人にだけ微笑む。
最後は「自分の声」を聞く。
それしかないのです。
そんな教訓を誰かに伝えるために、
人生は私にキビシーレッスンをたくさんしてくれたようですよ。
365日間、声とヴォイトレを語り倒します。
どんどんマニアックになっていきそうですが、声に興味のある方はたまらん内容かと(^^)
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