大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

最後に「正解」を決めるのは誰だ?

   

とあるレコーディング現場でのことです。

 

ブースに入って、ソロプレイをするプレイヤーの演奏を、
コントロールルームで、2人のミュージシャン、
T氏と、N氏が聞いていました。

演奏が止まって、さぁ、今のはどうだ?と、ジャッジする瞬間、

T氏はいきなりブースの向こうのプレイヤーに親指を立てて、
ご機嫌なようすで、こう言うのです。

「Oh,イェ〜。最高じゃん。OK,OK!」

 

そばにいたN氏は、その言葉を聞いて、一瞬苦い顔をしつつも、軽くスルー。
トークバックに向かってこう言いました。

「リズムが甘いね。悪くなかったんで、もう一回やろうか。」

 

それを聞いたT氏、信じられないというようすで、
「は?どこがいけないの?今ので全然OKだと思うけど。」
と、言い出します。

2人の間に、一瞬にして緊張が走り、
その場にいた全員が、ふと下を向きました。
「これでOKといかいう意味、全然わかんないな。」
ひとりごとのようにN氏が言って・・・

 

音楽の現場では感性の違う人間が集まって作品をつくります。

T氏のような、その瞬間にしか生まれない「空気感」第一主義の人もいれば、
N氏のように、完璧主義で、完成度の高いものをつくりたい人もいる。

正解はひとつもありません。

自分の正解は自分が決める。
バンドの正解はメンバー全員の合議の上決める。(注:これはだいたい失敗する)
現場の正解はディレクターが決める。。。

それだけです。

 

こちらは、とあるプログラムのレコーディング現場の、
アレンジャー兼ディレクターさんのお話。

黒人のコーラスアーティストを呼んで自由にレコーディングさせていたら、
なんとひとりで24トラックもレコーディングして、まいったとか。

「確かに素晴らしいハモなんだけど、トラックめいっぱい使って、
後処理が大変だよ〜」と、軽く愚痴まじりで言う彼。

これでは誰の現場だか、わかりません。

 

一方で、こんなこともあります。

日本でたっぷり時間をかけて、
ゴージャスにレコーディングして行った音源を

LAの著名なエンジニアにTDしてもらったら、
どんどんトラックを削られて、
最終的にすっかすっかのオケになって戻って来たとか。

「これがね。カッコいいんだよ。そのスカスカ感が」

と、名前に弱い日本人らしい発言をしていたのは、
確か、どこかのディレクターさん。

アーティストや作曲家、アレンジャー、
そして、プレイヤーたちが、そのオケを聞いてどう感じたのかは、
結局謎のままです。

 

正解はないのです。

ゴージャスなオケも正解。
スッカスカも正解。

 

誰にまかせるか?
誰が最後にOKを出すか?
そして、誰がその責任を取るのか?

 

結局は、コミットメント。
それに尽きるのです。

40546264 - young man in black t-shirt shows gesture okeyコアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。

 - The プロフェッショナル, 音楽人キャリア・サバイバル

  関連記事

「プロ」「アマ」という線引きは、 もうそろそろ卒業したい。

「俺なんか、ただのセミアマだからさー」。 高校時代に、 一緒にバンドをやっていた …

ヴォーカリスト必読!マイクとモニターの超絶役に立つお話!!!〜前編〜

昨夜のブログ、そしてメルマガにて、モニターやマイクのお話を書いたところ、 なんと …

レッスンでは、トレーナーの「アーティスト性」は無用どころか、邪魔なんだ。

レッスンの折には、多かれ少なかれ、 生徒たちに、歌を歌って聞かせるシーンというの …

「切り際」で、歌は素晴らしくも、へったくそにもなる。

昨日、「音の立ち上がり」は、 歌い手の声の印象を大きく左右する、 というお話をし …

「数値」と向き合う。「ヒト」と向き合う。

◆歌の「うまさ」は数値化できる。 専門的な機械を使えば、いや、近年ではそこそこの …

「すごい人」と、自分との距離。

どんな分野にも、すごい人というのはいるものです。 すごい人に出会う度に、自分の凡 …

自分との約束

プロフェッショナルやスペシャリストを志すとき、大切なことはシンプルなことばかり。 …

毎日プレイしているだけじゃ「上達」はしない

「人生で一番練習した」と言い切れる時期はありますか? おそらく、ほとんどの人は、 …

ゴールを鮮明に描く。

「がんばっているのに、どうも成果があがらない」、 「なんかうまくいかない」という …

お金、時間、労力、そして愛情をかける

楽器の人たちが機材をそろえるのに使っているお金、時間、労力は、 並大抵ではありま …