つぎはぎ、修正、補正だらけの歌に、「パッション」は宿らない!
「1回しか歌わないわよ」
レコーディングのとき、そう言って、本当に1度きりしか歌わなかったというのは、
今なお語り継がれる、女王・美空ひばりさんの伝説です。
女王のプライド、完璧な準備に裏打ちされた自信からのおことばでしょうが、
そう言われたエンジニア、スタッフ一同、どれだけ緊張したことか、
想像に難くありません。
歌は一瞬のパッション。
「生もの」とも言われる、歌に宿るパッションをつかまえそびれたら、
どんなに完璧で、きちんとした仕上がりになったとしても、
そのレコーディングは失敗なのです。
とはいえ、1回歌っただけで、
自分もスタッフも、そしてオーディエンスも、
納得させられるほど説得力のある歌を歌いきる、という自信は、
どれだけ修行を積んでも、凡人にはそうそう手に入るものではありません。
通常は、一度歌って、スタッフの反応を見る、
自分自身、一度プレイバックを聞いて、修正箇所を確認する・・・
などの繰り返しで作品を仕上げていくもの。
どんなにパッションやエネルギーが乗っていても、
あまりにミス・トーンが多かったり、
リズムやピッチがよれていたりすれば、
気持ち悪いと感じる人はたくさんいるもの。
自分自身のセンスと技術力に100%の自信がある人でない限り、
客観的な意見を聞いていくことも大切です。
しかし、ポイントは、この作業を繰り返していくうちに、
肝心のパッション、歌や声の鮮度がどんどん落ちてしまうことなんです。
楽器も歌も、「せ~の」で一発録りだった時代は、
レコーディングも、ライブやコンサートと同じでした。
自分1人がちょこっと間違えただけで、
ミュージシャン全員がもう一度はじめからやり直さなくてはいけなくなる。。。
いやが上にも集中力は高まります。
一発でベストパフォーマンスができるよう徹底的に準備をし、
その1発を全身全霊で歌う。
昔の歌手は、うまかったわけです。
マルチトラックレコーディングの時代になってから、
歌は(演奏もですが)何トラックか録って、その中からベストテイクを選び、
さらにそれを部分修正したり、補修したりしながら仕上げていく、
というスタイルが、主流になりました。
時代が進むと共に、修正も補修も機械がやってくれるようになり、
リズムがずれていても、高い音が出なくても、ピッチがあっていなくても、
「なんとかなる」ようになりました。
だから、ヴォーカリストにも、スタッフにも甘えが出ます。
全然歌えていないのに、「後は、そっちでなんとかしといて」と言い残して、
帰って行ったという勘違いタレントのOくんや、
「私の歌は魔法がいっぱいなの」と悪びれずにニコニコ語ったという、
有名アイドルKちゃんのお話などなど、
おもしろいお話をたくさん聞くようにもなりました。
しか〜し、ヴォーカリストを名乗る以上、
そんなゆるいことでは、仕事になりません。
つぎはぎ、修正、補正だらけの歌に、パッションは宿りませんし、
(「宿っているように聞かせる」のはスタッフさんたちの腕です)
絶対に人を感動させられる歌は歌えません。
「一瞬のパッション」だけは、修復も補正もできないのです。
1テイク目ではパッションやエネルギーを出し切らないよう、きちんと歌う。
2テイク目で、思い切り集中し、パッションを乗せつつ、
リズムやピッチがよれないよう、的確に歌う。
3テイク目で、さらに、さらにパッションを増幅して、
テクニック的なことを気にせず、思い切って歌う。
この3テイクくらいでOKが出せるよう、自分の基礎を磨き上げる努力をしたいものです。
日々是精進です。はい。
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