大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

人にものを教えるとは「あきらめないこと」

   

正直、面倒くさいです。

 

何度言っても予習してこない。

まともに練習もしない。

生活習慣を改められない。

彼氏や彼女のことで頭がいっぱい。

無断欠席、遅刻、度重なる体調不良・・・etc.etc….

 

私たちの仕事は歌を教えることであって、
「人として」というレベルは、
ご家庭や事務所でしっかりやっといてくださいと、叫びたくなるときもあります。

 

最初は軽いアドバイスからはじまります。

「もうちょっと練習がんばってこようね。」

「やっぱり歌の勉強を第一に考えなくちゃ、もったいないよね。」

 

やや微笑みながら、時にジョークも交えながら、
こちらなりに一所懸命伝えるメッセージ。

その重みを、きちんと受け止めてくれる子もたくさんいます。

 

しかし、翌週も、また翌週も、
同じように、練習してこない、言い訳する、遅刻する・・・

 

こちらを舐めているのか。
単に、わかっているけど、なかなか改められないのか。

 

意見しなければならないようなことが2度、3度と重なると、
もちろん、微笑みもジョークも消えていきます。

 

「ちょっとぉ。こないだ言ったじゃない?」
「あぁ、もう、今日はやめよう!」
だんだんとことばも表情もきつくなります。

 

気の小さい子なら、一度強めに言われると、
シュンとなって生活を改め、がんばりを見せはじめるのですが、
いやいや。ツワモノというのはどこの世界にもいるものです。

 

まぁ、3回目くらいが分岐点でしょうか。
教える側の選択肢は二つにひとつです。

次のステージに進むか。
それとも「あぁ、この子はしょうがない子なのね」とあきらめるか。

 

 

グループレッスンなら、
いちいちやる気のない子にかまっていては、やる気のある子に申し訳ありません。

「もうキミはやらんでよろしい」と言い放って、
やる気のある子、がんばっている子中心にシフトしていく・・・
仕方のないことです。

 

個人レッスンでも、
もうこの子に話すのはエネルギーと時間の無駄、と思えば、
当たり障りのない話をして時間をやり過ごすトレーナーもいるかもしれません。

 

しかしです。

お金をいただいてレッスンをする以上、
そしてレッスンや授業を一任されている以上、
事実上放り出してしまうのは、あまりに無責任です。

 

もちろん、生活や人生の優先順位を決めるのは自分自身ですから、
プライベートレッスンに来ていたって、
音大に来ていたって、

歌が上達したり、アーティストとして成功したりということが、
その人の本当の望みとは限りません。

毎日を、大学生活を、「楽しみたい!」ということが優先になっていて、
「今でも充分幸せなんです」という人には、何も言いません。

むしろ、もっと楽しんでもらえるように応援します。

 

しかし、

多くの子が、「このままではいけない」「周りに迷惑をかけている」
とわかっているのに、どうしたらいいかわからない。
自分を変えられない。

そうなると、こちらも、
さらなる精神的な肉体労働をしていかなくてはなりません。

 

 

理解し合えないなら、どうしてわからないのかを追求する。

本人の事情や思いを徹底的にヒアリングする。

そして、本人が本当に望んでいること、
願っていることは何なのかを、一緒に探す。

 

おそらく本人たちにはありがた迷惑でしょうが、
それが私のスタイルです。
人にものを教えるとは「あきらめないこと」だと信じているからです。

 

 

あきらめずに誠心誠意コミュニケーションを取り続けると、
やがて、落としどころというか、
本人の気持ちや状況が落ち着く先に行き当たります。

 

その瞬間から急速に変わりはじめ、
見る見るおとなに成長していった子たちに、何人も出会ってきました。

 

 

巣立っていくその瞬間まで、なんにもあきらめません。

中には迷惑な子もいるのはわかっているんですけどね。

残念でした。
それが私の仕事なもんで。

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 - ヴォイストレーナーという仕事

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