人にものを教えるとは「あきらめないこと」
正直、面倒くさいです。
何度言っても予習してこない。
まともに練習もしない。
生活習慣を改められない。
彼氏や彼女のことで頭がいっぱい。
無断欠席、遅刻、度重なる体調不良・・・etc.etc….
私たちの仕事は歌を教えることであって、
「人として」というレベルは、
ご家庭や事務所でしっかりやっといてくださいと、叫びたくなるときもあります。
最初は軽いアドバイスからはじまります。
「もうちょっと練習がんばってこようね。」
「やっぱり歌の勉強を第一に考えなくちゃ、もったいないよね。」
やや微笑みながら、時にジョークも交えながら、
こちらなりに一所懸命伝えるメッセージ。
その重みを、きちんと受け止めてくれる子もたくさんいます。
しかし、翌週も、また翌週も、
同じように、練習してこない、言い訳する、遅刻する・・・
こちらを舐めているのか。
単に、わかっているけど、なかなか改められないのか。
意見しなければならないようなことが2度、3度と重なると、
もちろん、微笑みもジョークも消えていきます。
「ちょっとぉ。こないだ言ったじゃない?」
「あぁ、もう、今日はやめよう!」
だんだんとことばも表情もきつくなります。
気の小さい子なら、一度強めに言われると、
シュンとなって生活を改め、がんばりを見せはじめるのですが、
いやいや。ツワモノというのはどこの世界にもいるものです。
まぁ、3回目くらいが分岐点でしょうか。
教える側の選択肢は二つにひとつです。
次のステージに進むか。
それとも「あぁ、この子はしょうがない子なのね」とあきらめるか。
グループレッスンなら、
いちいちやる気のない子にかまっていては、やる気のある子に申し訳ありません。
「もうキミはやらんでよろしい」と言い放って、
やる気のある子、がんばっている子中心にシフトしていく・・・
仕方のないことです。
個人レッスンでも、
もうこの子に話すのはエネルギーと時間の無駄、と思えば、
当たり障りのない話をして時間をやり過ごすトレーナーもいるかもしれません。
しかしです。
お金をいただいてレッスンをする以上、
そしてレッスンや授業を一任されている以上、
事実上放り出してしまうのは、あまりに無責任です。
もちろん、生活や人生の優先順位を決めるのは自分自身ですから、
プライベートレッスンに来ていたって、
音大に来ていたって、
歌が上達したり、アーティストとして成功したりということが、
その人の本当の望みとは限りません。
毎日を、大学生活を、「楽しみたい!」ということが優先になっていて、
「今でも充分幸せなんです」という人には、何も言いません。
むしろ、もっと楽しんでもらえるように応援します。
しかし、
多くの子が、「このままではいけない」「周りに迷惑をかけている」
とわかっているのに、どうしたらいいかわからない。
自分を変えられない。
そうなると、こちらも、
さらなる精神的な肉体労働をしていかなくてはなりません。
理解し合えないなら、どうしてわからないのかを追求する。
本人の事情や思いを徹底的にヒアリングする。
そして、本人が本当に望んでいること、
願っていることは何なのかを、一緒に探す。
おそらく本人たちにはありがた迷惑でしょうが、
それが私のスタイルです。
人にものを教えるとは「あきらめないこと」だと信じているからです。
あきらめずに誠心誠意コミュニケーションを取り続けると、
やがて、落としどころというか、
本人の気持ちや状況が落ち着く先に行き当たります。
その瞬間から急速に変わりはじめ、
見る見るおとなに成長していった子たちに、何人も出会ってきました。
巣立っていくその瞬間まで、なんにもあきらめません。
中には迷惑な子もいるのはわかっているんですけどね。
残念でした。
それが私の仕事なもんで。
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