「自分だったらどうか」という視点で考える
ボーカルやボイトレを教えているアーティスト、その卵たち、
そして、音大の学生たちは、もちろん、ひとりひとり、みな違います。
境遇も、ポテンシャルも、性格も、好みも、
年齢さえも、実にさまざまで、
日々、この子には、どう伝えたら、どこまで要求したら、
どこでOKとしたら・・・と、悩むことしばしばです。
そうして、さんざん悩んだあげく、結局いつも、
「自分だったらどうか?」という、落としどころにおさまるのです。
どれだけ想像力を働かせても、
どれだけヒアリングを繰り返しても、
人間は自分以外の感性で物事を見たり、感じたりすることはできません。
極論すれば、自分が「青」に見えている色は、
他の人には「真っ赤」に見えているのかもしれない。
つまり、「海が青いね」、といったときに、
一緒に見ている人と、自分自身が必ず時も同じ色でものを見ているのかどうかは、
確かめようがありません。
だから、どれほど必死に考えても、
他の人がどんな感覚で自分の言ったことを受け止め、
それに対してどんな反応やリアクションをするのかを、
100%想像することは不可能なのです。
では、何を基準に、何をゴールにして、彼らを導いていったらいいか。
どこまで想定すれば、「最良の結果に向かっている」、
もしくは、「最良の結果を出せた」と言えるのか。
彼らにとっての「最良」の意味すらハッキリ定義づけられないときに・・・。
長年教えてきて、私が出した結論は、
「自分だったらどうか」という視点で考えること。
どう言われたら、素直に相手の言うことを受け入れられるか?
「おとな」という上からの目線ではなく、
自分のことを親身に、同じ目線で見てくれている人からのアドバイスと感じられるか?
どんな風に説明されたら、時に手痛いダメ出しも
「お前はダメだ」と言われているのではなく、
「お前にはできるはずだ」という意味として受け取れるのか?
私は本当に素直じゃない、
実に理屈っぽい、それでいて純粋で思い込みばかりの激しい、
全くもって扱いにくい若者でした。
おとなたちの、
建て前で何かを言ったり、
理屈にあわないことをごまかして言いくるめようとしたり、
自分の手に余ることから逃げようとしたり・・・
そんなところが大嫌いでした。
そして、そんなおとなたちの、
「お前には所詮無理だ」
「キミの才能はこんなものだ」
「成功している人たちは別世界の人間だ」
・・・などと言うことばに、
たくさんの、たくさんの涙を流し、
身も心も切り裂かれるような悔しい思いを、たくさん、たくさんしてきました。
だから、私は、なにひとつ決めつけたくない。
本人たちが望むゴールに向かう道を、
なんとしてでも一緒に切り開きたい。
そして、絶対に、妥協したくない。
こんな完璧主義で、なんにも大目に見られない、
時にドS先生と呼ばれてしまう私のレッスンを受ける生徒たちは、
さぞかし覚悟がいることでしょう。
しかし、引き受けるからには「最高」を極めるお手伝いをしたいのです。
みんなの「本気」には、全身全霊をかけて応えたいのです。
そしていつか、
あれほど反抗的で、愛情に飢えた、
それでいて、貪欲で、中途半端なものには絶対に納得できなかった、
若かりし頃の私自身が、「出会いたかった先生」になりたい。
それこそが、私のレッスンのスピリッツになっているものです。
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