人は生涯に、何曲、覚えられるのか?
優れた作曲家、アレンジャー、プレイヤー、
そして、ヴォーカリストの多くが、
びっくりするほどたくさんの曲を覚えています。
人間ジュークボックスかと言うくらい、
気が向けば、次から次へと曲を演奏する人。
歌詞やアドリブまでしっかり覚えていて、
曲がかかると、どんどん一緒に歌える人。
中には,歌いながら演奏できる人も、たくさんいます。
では、どうやって、そんなにたくさんの曲を覚えたのでしょう?
今は昔。
インターネットはおろか、
市販の楽譜なども、ほとんどなかった時代。
演奏したいと思えば、耳コピでコードをたどり、
片っ端から覚えたり、自力で譜面を制作したりする以外ありませんでした。
聞き取れないような早弾きや、
録音が悪くて潰れた音のコードを、
カセットテープを何度も巻き戻しながら、
いや、もうちょっと前の時代の人たちは、
レコード針を何度も落としながら、
しつこく、しつこく、何度も聞いては、練習しました。
ヴォーカリストたちも同じ。
歌詞カードは邦盤にしかついておらず、
ついていても、
どうするとこんな風に聞こえるんだろうと思えるほどウソばかり。
本物と同じように歌いたければ、
ひたすら、耳コピするしかありません。
そうしてつくった、オリジナルの歌詞カードを見ながら、
歌えないフレーズを、出せない音を、何度も何度も練習する。
その度に、まだ歌詞が間違っている気がして、何度も聞き込む。
なんで歌えないんだ。
どうして、カッコよくならないんだ。
やっぱり英語は無理なのか。
所詮、自分はダメなのか。
どこが違うんだ。
いい音がしないのは、なぜなんだ。
そんな疑問の答えを、来る日も来る日も探し続ける。
練習は、自分との戦いです。
そうやってうんざりするほど時間をかけて、自力で手に入れた情報こそが、
時を経ても、自分のカラダの中にずうっととどまって、
音楽人生を支えてくれるのです。
ミュージシャンの、本当の意味での宝物です。
ちょっと探せば、なんかしら譜面が手に入る時代。
最初は読むのが一苦労だった譜面も、
練習を積めば、文字を読むように読めるようになります。
鍵盤や指板を確認することなく、
譜面から目を離さずに演奏をすることができるようにも、
もちろんなります。
しかし、譜面を見て、ぱっと演奏できるものは、脳に記憶されず、
素通りしてしまいます。
速さと正確さを競う、タイピストの技能検定のような演奏をいくら繰り返しても、
演奏に深みや厚みは出ないのです。
大切なのは、暗譜すること自体よりも、そのプロセス。
「とりあえず弾けるから、ま、いっか。」
「間違えないで歌えるから、もう大丈夫」
そんな、誰でもできる、ちょろい準備をしていたのでは、
一生うまくなりません。
上達には近道はない。
「カラダにしみこむまで練習する。」
この、王道しかないのです。
関連記事
-
-
コツコツ積み重ねる微差が、逆転勝ちを演出する
自分の生まれは選べません。 生まれたときから、才能やルックスや音楽環境に恵まれて …
-
-
中途半端なメソッドで教えない。学ばない。
メソッドには3種類あります。 ひとつは教え手自身が、複数の学校で、または専門家か …
-
-
「ジャストフィット」を探せ!
初めて手に入れたギターは、ピアノのおまけにと、 お店の人がサービスでつけてくれた …
-
-
音楽には「顔」がある。「オケと歌」、じゃないんです。
楽器の人たちと話していると、 演奏中、ヴォーカリストとは全然違う視点で ステージ …
-
-
時間がかかることを怖れない
本気でうまくなりたいなら、「この1曲」と決め、歌いこなせるようになるまで、とにも …
-
-
目一杯のインプット&勝負をかけてのアウトプット
どんな人にも、 スキルを上げるべく、目一杯インプットしたり、 勝負をかけて、アウ …
-
-
ピッチをよくする練習。
「ピッチ悪いね」 歌を志す人が投げ掛けられる苦言で、 これほど辛く、 途方に暮れ …
-
-
失敗も含めて「ライブ」なんだ。
どんなに、どんなにがんばって準備をしても、 ライブやコンサートには、失敗やアクシ …
-
-
学ぶ姿勢
誰かから何かを学ぶときは、 ひととき自我のスイッチを切り、 その人の言うことを、 …
-
-
「軸の弱さ」をなんとかする。~Singer’s Tips #13~
高い声を出すとき、どうしても上を向いてしまう。 大きな声を出す時は、なぜかクビが …
- PREV
- ウサギとカメはどっちがすごい?
- NEXT
- まず、やれ。文句を言うのはそれからだ。