大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

先人たちの名演に学ぶ

   

ボーカリストにとって、いや、ミュージシャンにとって、
最高の教材は先人たちの残してくれた名演の数々です。

ライブ録音はともかく、きちんとレコーディングされたものは、
(もちろん、録音された時代や音楽の種類にもよるので、一概には言えませんが、
少なくとも、ここ20年〜30年くらいのポピュラー音楽では)
ちょっとしたニュアンスや、節回しさえ、
繰り返しレコーディングされたものの中のベストテイクです。

デモの段階から、歌唱やプレイを練りに練る人もいるでしょうし、
プリプロから、本番まで、何十トラックも録音して、
どんな表現がベストか、なんども試行錯誤するアーティストもいます。

だから、たとえば歌い出しの音の入り方ひとつ取っても・・・

ぽ〜んと一瞬で音を捕らえて、即座に減衰するように歌い出すのか、
子音を強調して、アタックをきかせてからぐいんと伸びるように歌うのか、
ラップ調に、思いきりビート感で攻めるのか、
フェードインするのか、
はたまたズリ上げるのか・・・すべて意味があることなのです。

そんな名演と言われるものには、
ワンフレーズにさえも、信じられないくらいたくさんの情報が詰まっています。

ダイナミクスのつけ方。
間の取り方。
音色。
ニュアンスのつけ方。
声のエフェクターの使い方。
音の入り方。止め方。ことばの発音の仕方。
グルーブの感じ方。。。。

真似をはじめたとき、すぐに歌えた気になるのは、
こんな情報がまったく拾えていないから。
そして、たいがいの人が、それで満足して終わってしまいます。

でも、歌のプロを目差す人は、それではダメなんです。

情報が拾えないということは、表現できないということ。
表現したいと思うこともない。
表現したいのに、テクニックが追いつかないことに気づくこともない。

これでは上達しないし、伝わりません。

大好きなアーティストの歌を真似てみる。
徹底的に真似てみる。
すると、なぜ、そのアーティストの歌が魅力的なのかがわかる。
なぜ、自分の歌が面白くないのかが、わかる。
それがやっとスタートラインです。

「モノマネとかって、好きじゃなくって。オリジナリティ大事にしたくて」
そんな声が聞こえます。

表現できる絵の具もことばも持たないまま、
ただただ、必死に、自分の手持ちの表現に感情をぶつけて、
相手にわかってもらおうと期待することがオリジナリティでしょうか?
それはボキャブラリーの乏しい、子供のおしゃべりと同じです。

それはオリジナリティというのではなく、「稚拙」というのです。

真似するくらいで消えてなくなるようなオリジナリティなら、とっとと捨てましょう。

 

 - 未分類

  関連記事

no image
「妥協点」と「落としどころ」は決定的に違う

複数の人とクリエイティブな作業をしていると、 必ず、意見が分かれるときがあります …

no image
「仕事に困らないミュージシャン」の3つの特性

仕事がなくなると、景気だの、時代だのと世の中のせいにしたがるのは、 ミュージシャ …

no image
「知は力」・・・発声の科学を学ぶ意味

歌の上達の一番の早道は、 なんといっても優れた歌い手を徹底的に研究し、真似てみる …

no image
「これが正しい」は自分で選び取る

アーティストや学生たちと接していると、 「何が正しいのかわからなくなってしまいま …

no image
反面教師という大切な存在

「こんなピッチの悪い歌をわざわざ持ってきて、人に聴いてくださいって言える神経がわ …

no image
「自分の声は変えられますか?」

「自分の声は変えられますか?」 異業種交流会のような場で、 名刺を出して、私の仕 …

no image
好きになれないなら、理解しようと努める

「そんな、しょーもない曲ばかり聴いているから、歌がうまくならないんだ!」 ある先 …

no image
プロフェッショナルには「覚悟」がある

高校時代から、たくさんの音楽仲間にめぐまれました。 みんな音楽が大好きで、 寝て …

no image
技術によって人間は進歩するのか、退化するのか?

技術によって人間は進歩するのか、退化するのか? はじめてレコーディングのお仕事を …

no image
夢のチカラ

「こんなことができたらいいな。」 「こんな風になれたらいいな。。」 毎日のように …