大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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技術によって人間は進歩するのか、退化するのか?

   

技術によって人間は進歩するのか、退化するのか?

はじめてレコーディングのお仕事をしたのはアナログの時代。
歌や楽器のピッチやリズムを修正することができないのはもちろん、
まったく同じフレーズが延延と続く楽曲でも、
曲の長さ通り、きっちりと演奏をしなくてはなりませんでした。

コーラスのレコーディングで、何声も重ねるときなど、
1曲のコーラスレコーディングだけで何時間もかかったものです。

そんなハードでシビアな現場ですから、
コーラスの職人たちが大活躍していました。

一本のマイクに向かって、
複数の人が一斉に声を出してハーモニーを演奏するので、
一人でも上手じゃない人がいたら、そのプログラムは延延と終わらない。

しかも当時はスタジオ1時間数万円、エンジニアに1時間数万円と、
レコーディングの現場では毎日何十万、
時には百万単位のお金が動いていた時代。

多少ギャラが高くても、
仕事が早くて、正確で、クオリティの高い職人たちを呼べば、
時間とお金の節約になったものです。

そんなレコーディングの現場が技術の進歩と共に一変します。

はじめてスタジオで、
「あ、MISUMIさん、一回だけ歌ってもらったら、後、叩くんで」
と言われた時は、自分の耳を疑ったものです。

「叩く」とは、1回だけ録音したものを、
デジタル処理で繰り返し歌った形に編集すること。
(少なくとも、私はそう理解しています)
つまり、今風に言うとコピペですね。

その技術のおかげで、1曲のコーラス・レコーディングに使う、
時間も体力も集中力も、それまでの何分の一かで済むようになりました。

なんて素晴らしい時代が来たんだろうと思ったものです。

しかし、時はバブル期が過ぎ去り、予算縮小ムードの日本。

喜んだのもつかのま、
今度はたった一人でスタジオに呼ばれ、延延と一人でハーモニーを重ね、
時には一日に何曲ものコーラス入れをする、という現場が増えました。

ミュージシャンの仕事が一気に減ったのもこの頃です。

そうして、さらにレコーディング技術が洗練されて、
ついに、誰が歌っても、
そこそこちゃんとしたコーラスに聞こえる時代がきてしまいました。

男性が歌っても女性の声のように変化させられる。
音程もリズムも音色も、
だいたいあっていれば、ちょちょいのちょいで直せる。変えられる。

一般の人がちょっと聴いたのではわかりません。

そんなことが自宅のPCレベルでできるようになりました。

立派なレコーディングスタジオは次々と姿を消し、
楽器職人、コーラス職人たちも次々と現場を退きます。

代わりにデジタル世代がどんどん台頭してきました。

演奏力などまったくなくても素晴らしい演奏をしてしまう「プレイヤー」。
自分は歌えなくても、初音ミクさんという女性に歌ってもらう「作曲家」。
ちゃんと歌えなくても、ちゃんと歌えたことになってしまう「歌手」。

隔世の感がありますが、これが時代というものですね。

ただし、ライブはごまかせません。

録音したもののデキがすばらしいのに、
実際聴いてみてがっかり、なんて日常茶飯事です。

スポーツでも、ダンスでも、音楽でも。
人間はやっぱり、人が肉体を使ってすることに感動する。
この図式だけは変わらないはず。
デジタル時代によりかかって、技術力を磨ききれずにいたのでは、
けして、人を感動させるミュージシャンにはなれないのです。

・・・少なくとも、現時点では。

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