好きになれないなら、理解しようと努める
「そんな、しょーもない曲ばかり聴いているから、歌がうまくならないんだ!」
ある先生に叱られた、と、思い詰めた生徒に相談を受けたことがあります。
音楽の趣味を変えろ!もっと本格的な歌を聴け!
・・・と先生に勧められた曲は古くさくて、小難しい曲ばかり。
「歌の勉強をするには、ああいうの、好きにならなくちゃいけないんですか?」
彼女の問いは切実です。
音楽には、人の好みというものが、実にハッキリと映し出されます。
実は、私、思い切って告白すれば、こどもの頃からJ-POPが苦手です。
父の影響で、生まれた時からジャズやブルースばかりを聴いて育ったせいか、
それとも、生来のあまのじゃくな性格のせいなのか、
ヒットチャートに名を連ねるような日本人アーティストに心酔したとか、
J-POPのレコードを夢中になって聞いたとかいう経験は、ほぼ皆無に等しいのです。
同級生みんなが夢中になっているJ-POPを、
素直に「いいね」と言えたことは、正直、一度もありません。
むしろ、嫌悪感が先に立って、耐えられないと感じました。
その感情を悟られないようにするのに必死でした。
今でも、プライベートで邦楽を楽しむなどということは皆無です。
嫌いなものは嫌い。好きになれないものは仕方ありません。
そんな私に変化が訪れたのは、ボイストレーナーになってから。
私の心を鷲づかみにした素晴らしい音楽を、生徒たちに知ってもらうには、
まず、彼らの愛する音楽を、
自分が知ることからはじめるのがフェアと感じたことがきっかけでした。
このアーティストのどんなところが好きなの?
どんなところがカッコイイの?
マネしたいと思うのはどんなとこ?
どの曲が好きなの?
その曲の、どの辺にどきどきするの?
そんな質問を繰り返し、彼らの耳と感性で、彼らの大好きな音楽に耳を澄ましたら、
J-POPは全く別ものに聞こえて来ました。
今まで、感じたことのなかった、
J-POP独特の歌い回し、
日本語の歌詞特有のわびさび、音、感情表現、
日本人の琴線に触れる声の音色、メロディー・・・
そんな情報が、どんどん自分の中に流れ込んできます。
なるほど。なるほど。
すごいね。魅力あるね。
こういうの、好きっていうの、わかるよ。
感情レベルの趣味趣向は一朝一夕では変えられません。
でも、情報のレベルでなら、
どんな趣味趣向も、人は受け入れられるものだと学びました。
ちょっとした努力で、人は、互いへの理解を深めることができる。
ときに、その理解から、新たな感性の扉が開いて、
新しい「好き!」を見つけられることもあるかもしれません。
あんなにJ-POPが苦手だった私でさえ、
今では、我が家にやってくるアーティストの歌に、
じーんとしてしまうことさえあるくらいです。
こちらの世界を知って欲しかったら、まずは迎えに出向いてみる。
聴いて欲しい音楽、学んで欲しい歌があったら、
そのよさを情報化して、少しずつ興味を駆り立ててゆく。
そんな小さな積み重ねが、人の心に影響を与えていくもの。
そんなことから、音楽の土壌を育てていかれたらステキだな、と思うのです。
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