大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「これでいいのだ」と言い切る勇気。言い切れるまで追い込む努力。

   

中学時代、先生や英会話部の先輩たちが口々に、
「カーペンターズの英語はきれい」
「カレンの英語を聞いて発音を学びなさい」などと、
言うのを聞くたびに、
いつも違和感を感じていました。

こどもでしたから、もちろん、専門的なことはわかりません。

ただ、ビートルズで英語を覚えた私には、
カレンの英語は、妙に曖昧で、妙になめらか過ぎる。

その頃から英語と米語の発音の違いというものを、
おぼろげながら意識するようになりました。

 

「正しい発音」ってなんだろう・・・?

英語の発音問題は、その後もずっと私について回る、
因縁のようなものになりました。

 

プロになって、フィリピン出身のヴォーカリスト、
Mさんのバックコーラスを勤めていた時のことです。

Mさんのレパートリーは記憶する限りすべて英語。

得意の英語でのコーラスということで、
リハでも自信満々に歌っていた私に、
いきなりMさんが言いました。

「MISUMI、Loveはロヴと発音するのよ。ロヴ。」

はじめは何を言われているのかわからないくらい、
彼女の発音は、当時の私には、
完全にカタカナで「ロヴ」としか聞こえません。
(もちろん”L”や”V”はそのままですが)

母国にいた頃から、
ずっと英語を話していたというMさんにとって、
ビートルズの”Can’t buy me love”や
ジョン・レノンの”Love”で覚えたつもりだった私の”Love”は、
黙って言られないくらい、違和感のあるものだったわけです。

英語の奥深さを感じた瞬間でした。

 

英語圏、つまり、英語が国語、
または公用語として使われている国は、
世界80カ国以上あると言われています。

自分の生まれた国のことばですから、
誰もが、自分の発音が正しいと思うのは当然です。

日本のような狭い国の中でさえ、
同じ言語が、北から南まで、
さまざまな発音&イントネーションで話されています。

自分が生まれた土地のことばが自分にとって正しい。

「標準語」などという定義は、一般人には無用です。

 

アメリカ、カナダと転々と移り住んだ後、
しばし滞在したイギリスでは、
友人たちに、折りに触れ、
「MISUMI、それは英語じゃないよ。
アメリカンイングリッシュだ。」と、
ジョーク混じりに発音やイントネーション、
言い回しを直されました。

独特の日本訛りを面白がられる時もあります。

アメリカ人の友達には、時折、
「MISUMIはイギリス人みたいなことばを使うね。」
などと言われることもあります。

英語をきちんと歌おう、ちゃんと歌おうと、
必死に練習を重ねて、
レコーディングしたDemoを聞いてくれた別のアメリカ人の知人に、

「これじゃアメリカ人と同じじゃないか。
もっと日本人らしい英語で歌って、
アイデンティティを出すべきだ。」

などと言われたこともあります。

 

どないやねんっ!💢

 

日本でDJとして活躍していたイギリス出身のジョン・ロビンソンは、
私の友人の中でも、
とびきりわかりやすい英語を話す人のひとりでしたが、

彼は、自分の英語を評し、
「僕はミッド・アトランティック・アクセントなんだ」
と言っていました。

ミッド・アトランティック・アクセントとは、
英語と米語のブレンドされたことばのこととか。

それ、いいじゃん。と思ったものです。

なんでもありなんです。

 

英語で話すとき大切なのは、
わかりやすいこと。
きちんと伝わること。
聞く人に不快感を与えないこと。

せっかく英語で歌うなら、
英語の持つ独特な音色やビート感などのメリットは、
ちゃんといただくこと。

 

そういった努力をきちんとしたら、
自分自身の話すことばを
「これでいいのだ」と言い切ってしまえばいいではないか。

「これでいいのだ」と言い切る勇気。
言い切れるまで自分自身を追い込む努力。

最後に試されるのは、いつだって、この2つです。

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