「何言ってやがんでぇ」と吠えてみる。
2019/08/17
かれこれ10年近く前のこと。
さる著名な文筆家が主催する食事会に参加させていただいたことがあります。
「お目にかかる人のことは前もってググる」などという、
ビジネスの基本もよくわかっていなかった頃です。
友人の誘いで気楽な気持ちで参加したものの、
厳めしい人たちばかりの、格式張った雰囲気で、
会話に入り込むこともできず、
ただ黙々とみなさんの話に耳を傾け、
わかったような顔でにこにこと頷くだけ。
みなさんのお話は本当に面白かったのですが、
あまりの高尚な雰囲気に、
終始、場違い感に苛まれました。
食事の後、お茶を飲んでいた時のことです。
私の「借りてきた猫」ぶりを気の毒に思った友人に促され、
勇気を出して、
「先日、こんな本を出版しました」と、
出版したばかりだった自著を主催者の方に手渡しました。
「ああ、そうですか」と
興味なさそうに私の本を受け取ったその方は、
表紙をちらりと見て、
「私に、こんな本をくれましたよ。」と、
会食に集うゲストのみなさんにその本を掲げて見せるのです。
その口調、その表情から、
自分が間違いをしでかしたことに即座に気づきましたが、
時すでに遅し。
ゲストのみなさんは、どんなリアクションをしたらいいか、
やや困ったような、苦笑とも、
微笑とも取れるような笑顔で頷くばかり。
主催の方は、すぐに話題を変えて、
文学論だったか、経済論だったかを
ひとしきり展開してから、いきなり、
「最近のビジネス書や実用書なんてもんは・・・」と、
苦々しい顔で語りはじめたのです。
そんな話題になったのは、
たまたまだったかもしれません。
私の自意識過剰かもしれません。
それでも、その時のことは、
深い後悔と共に、ずっと心に残っています。
こんなこともありました。
高校時代、同級生にせがまれて、
休み時間に音楽室のピアノで、
カルメンマキさんの歌を歌ったことがあります。
同級生たちはピアノの脇に座って、
目を輝かせて私の歌を聞いていました。
曲のクライマックスで、
例のロックなシャウトをキメた時のことです。
背後から音楽教師・K女史の怒号がしました。
「あなたたち!外へ出なさいっ!」
K女史いわく、
次の授業で教室に入ってくる下級生たちが、
あんな発声を正しいと思っては困る。
あれは歌ではない。
音楽ですらない・・・
うんぬん。
先生の怒りを買ったことで、
言い出しっぺの同級生たちは、
無言のままうなだれて、しゅんとしています。
いやいやいやいや。
高校生の私は無敵、いや、不敵でした。
「先生にとっては音楽じゃないかもしれませんが、
あたしにとっては、これが音楽です。
こういう音楽だってあるんです!」
言い放つまではよかったのですが、
キーッとなったK女史にいきなり生徒証を取り上げられ、
以降の通知表の成績を2ポイントも下げられるという
憂き目に遭いました。
誰もが自分がこだわっている事柄に一家言持つのは自然なこと。
他人のしていることに批判的な視線を向けたり、
否定的な意見も持つこともあるでしょう。
私自身、こだわりは強い方なので、よくわかります。
しかし、
シェイクスピアは奥が深いから素晴らしくて、
ドリフは低俗だから見ちゃダメだとか、
ジャクソン5はうまいから勉強になるけど、
SMAPはへたくそだから聞かない方がいいとか、
そんな説教をしてる人に出会うと、
「何言ってやがんでぇ」と思ってしまう。
歌舞伎やシェイクスピアが低俗と言われた時代もあったはず。
黒人の音楽など興味を持つことさえ許されない時代もあったでしょう。
100人いれば100人のこだわりがあります。
自分のこだわりが強いからこそ、
他人のこだわりにもリスペクトを持ちたい。
人間、自分以外は、みんな「ちょっと変わった人」。
何十年も、人によっては半世紀以上も人間をやっているなら、
そのくらいのこと気づきたい。
もっと言ってしまえば、
8割の低俗だったり、低級だったり、
下世話だったりするものがお金を生んで、
2割の芸術家たちの活動を支えているという考え方だって、
あるのじゃないか。
迎合はいらない。
妥協もいらないし、共感すらなくてもいい。
自分の価値観を大事に思うからこそ、
人の価値観にもリスペクトを払う。
そんな世の中であって欲しいな。
少なくとも、音楽や出版やアートの世界では。
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