カラダという楽器 〜 Singer’s Tips #9 〜
ピアノでも、ギターでも、
「さぁ、弾こう」という前に、
弾き手が必ずするのがチューニング。
これまで、文字通り数え切れない人たちと演奏してきましたが、
チューニングをしないで演奏をはじめる演奏家には、
ただのひとりも、会ったことがありません。
演奏家はチューニングにこだわる。
そして。
音に、こだわる。
ピアノならスタインウェイ、
ギターならフェンダー、ギブソン、
ヴァイオリンならストラディヴァリウス、
というように、
演奏家たちが名器にこだわるのは、
リッチなおじさまたちが、
高級車や高級時計などにこだわるのとは、
意味が違います。
いい楽器は音色が違う、
表現力が違うからです。
いい音色の楽器は、
自分の表現したいことを過不足なく表現してくれるだけでなく、
自分自身の表現の幅も拡げてくれます。
絶対的な自由度が高まるのです。
もちろん、いい音がすることで、
演奏自体のクオリティもぐっと上がって聞こえます。
さて。
では、ヴォーカリストはどうか。
残念ながら、私たちの楽器は、
買い替えることはできません。
どんな楽器だろうが、
自分の持っている楽器と、
一生涯付き合わなくてはなりません。
チューニングを整えてくれる人もいなければ、
演奏中のチューニングをチェックする機材もない。
私たちが扱うのは、
生身の、この、カラダという楽器です。
カラダほど自分自身に近い、
いや、自分そのものである楽器もありません。
人間がつくった楽器とは違い、
神様がつくってくれた、この楽器には、
制限も、ルールもない、
無限の可能性が宿っているのです。
時に、そんなカラダの不正確さや曖昧さに、
どうしようもない無力感を覚えることもあるかもしれません。
しかし、それでも、
自分を信じる。
自分のカラダの可能性を信じる。
それが信じられないなら、
そのカラダをつくってくれた神様を信じる。
「可能である」と信じて練習する人にしか、
「自由」は訪れないのですよね。

◆一生に一度、集中的に学ぶだけで、”自分で自分に教えること”を可能にするMTL 12。毎週日曜日10時〜Youtubeにて公開中。
◆毎週月曜発行中!声に関するマニアックな情報やインサイドストーリーをお届けする無料メルマガ『声出していこうっ』。バックナンバーも読めます。
関連記事
-
-
「大きい音」を扱うのって、テクニックがいることなんですぞ。
「ラウドな音楽をやっている」と言うと、 デリカシーのない、 雑な演奏をしていると …
-
-
ボイトレだけじゃ歌はうまくならない? 果てしない“歌のトレーニング”を、わかりやすくしたかった。
「歌のトレーニング」イコール「ボイトレ」と思っている人があまりに多く、がっくりす …
-
-
「気づけない」から上手くならないってことに早く気づく。
中学1年の夏休み、 長年の夢だったピアノを、 やっとの思いで買ってもらいました。 …
-
-
声の老化は隠せない
「うっそぉ〜〜。ほんとにぃ〜〜?」 30年以上も前でしょうか? 女子中高校生たち …
-
-
発声の基本のチェックリスト
「役者はセリフを歌え。歌手は歌詞をしゃべれ。」 今日のEbidanに登場したブラ …
-
-
声は、自分という人間の印象を変えるのか?
声を変えることで、自分の印象を変えることができるのか? そもそも、声は変えられる …
-
-
大きな変化は一瞬で起こる
変化はいきなりやってくる。 長年人間をやってきた実感です。 毎日が …
-
-
それで、いい声、出せますか?
先日、とある生徒さんのレッスンをしていた時のこと。 ずいぶん小柄な彼女なのに、 …
-
-
みんな勝手なこといいやがる。
今でこそ、プロアマ、セミプロ問わず、 「アーティスト」なんて、 定義のふわっとし …
-
-
変化は必然。
業界のお仕事が長いせいか、 はたまた海外生活を経験したせいなのか、 変化に対する …
