大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

カラダという楽器 〜 Singer’s Tips #9 〜

   

ピアノでも、ギターでも、
「さぁ、弾こう」という前に、
弾き手が必ずするのがチューニング。

これまで、文字通り数え切れない人たちと演奏してきましたが、
チューニングをしないで演奏をはじめる演奏家には、
ただのひとりも、会ったことがありません。

演奏家はチューニングにこだわる。

そして。
音に、こだわる。

ピアノならスタインウェイ、
ギターならフェンダー、ギブソン、
ヴァイオリンならストラディヴァリウス、
というように、
演奏家たちが名器にこだわるのは、

リッチなおじさまたちが、
高級車や高級時計などにこだわるのとは、
意味が違います。

いい楽器は音色が違う、
表現力が違うからです。

いい音色の楽器は、
自分の表現したいことを過不足なく表現してくれるだけでなく、
自分自身の表現の幅も拡げてくれます。
絶対的な自由度が高まるのです。

もちろん、いい音がすることで、
演奏自体のクオリティもぐっと上がって聞こえます。

さて。
では、ヴォーカリストはどうか。

残念ながら、私たちの楽器は、
買い替えることはできません。

どんな楽器だろうが、
自分の持っている楽器と、
一生涯付き合わなくてはなりません。

チューニングを整えてくれる人もいなければ、
演奏中のチューニングをチェックする機材もない。

私たちが扱うのは、
生身の、この、カラダという楽器です。

カラダほど自分自身に近い、
いや、自分そのものである楽器もありません。

人間がつくった楽器とは違い、
神様がつくってくれた、この楽器には、
制限も、ルールもない、
無限の可能性が宿っているのです。

時に、そんなカラダの不正確さや曖昧さに、
どうしようもない無力感を覚えることもあるかもしれません。

しかし、それでも、
自分を信じる。
自分のカラダの可能性を信じる。
それが信じられないなら、
そのカラダをつくってくれた神様を信じる。

「可能である」と信じて練習する人にしか、
「自由」は訪れないのですよね。


◆一生に一度、集中的に学ぶだけで、”自分で自分に教えること”を可能にするMTL 12。毎週日曜日10時〜Youtubeにて公開中。
毎週月曜発行中!声に関するマニアックな情報やインサイドストーリーをお届けする無料メルマガ『声出していこうっ』。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, Singer's Tips, 声のはなし, 歌を極める

  関連記事

今さら知りたい?「いたずら電話撃退法」

“Hello, Maria?”(ハロー、マリア?) ひと …

自信、自信、自信。

こどもの頃から声が大きくて、 大勢で騒いでいても、 友達の話に相づちを打っている …

高い声はどうやって出したらいいのか?

「どのくらい高い声を出せるのか?」という議論は、 「どのくらい速く弾けるのか?」 …

A rock singer performing with powerful voice — Rock Voice Grows Through Experience, Not Knowledge.
ロックな声は、“知識”じゃなく“体感”で育てる

ロックと言えば、バッキーンと突き抜ける高音。 そして、ハスキーボイス。 昨今、さ …

声を伝えるのに必要なのは「デリカシー」。「気合い」じゃないんですよ。

音の波形ってみたことありますか? 音は空気の振動。 特殊な装置をつかうと、 その …

「ヘタウマ」な人、「じょうず」な人、「いい声」の人。

若かりし頃、よく言われたことばに、 「キミってヘタウマだよね。」というのがありま …

苦しさも音楽の一部だから。

歌がうまくなりたい!という強い衝動は、 一体どこから湧いてくるのか? 歌に、音楽 …

「ストリートミュージシャン」というお仕事

欧米では、 街角や地下鉄の通路などで、 音楽を演奏するミュージシャンに、 しばし …

みんな勝手なこといいやがる。

今でこそ、プロアマ、セミプロ問わず、 「アーティスト」なんて、 定義のふわっとし …

no image
「怖いですかね?私?」

販売関係のお仕事で管理職を務める若き女性、Wさん。 「私、『もっと怖い人なのかと …