大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「ピッチが悪い!」を直すロジカルシンキング

   

「ピッチが悪い!」

年間通して、いや、1週間に、
このことばを、何回口にするでしょう?

 

言い方のバリエーションはいろいろです。

「なんかピッチが気持ちよくないね」

「ちょ〜っと音がぶら下がっちゃってて、抜けてこないね」

「イマイチ、メロがくっきりしないね。」

などというマイルドなものから、

 

「どんなメロディ歌ってるのか、さっぱりわかんないわ」

「一個も音あたってないけど?」

などという容赦ないものまで。

 

歌っている人たちのレベルや、私との関係性、
本人の性格などによって、言い方はいろいろです。

 

私がピッチにうるさい理由は3つ。

1.自分が若かりし頃非常にピッチが悪く、苦労した。

2.プロの世界では、何はなくても、ピッチがよくないと仕事はこない。

3.アイドルでもない限り、ピッチの悪いアーティストは、基本売れない。

 

 

音楽のスタイルにもよるかもしれませんが、
ピッチが悪い歌は、
イマイチ気持ちよくない、
ぱっとしない、
歌が抜けてこない・・・・・。

 

どんなにテクニックがあろうと、
英語が達者だろうと、
本格派な声だろうと、

音のツボに当たっていない歌は、
どうやったって残念なんです。

 

別に、自分が歌うすべての音が、
ピアノの鍵盤上になくちゃいけないなんて話をしているんじゃありません。

それじゃ初音ミクです。

 

でもね。気持ちいいとこに当たって欲しい。

多少の誤差はあっても、「気持ちいいとこ」は本能的に同じです。

 

チューニングの悪いギターで演奏したんじゃ、
どんなにバカテクだって、カッコよく聞こえないのと一緒なんです。

 

ところが、こうして、ホントに口が酸っぱくなるほど、
ピッチピッチピッチピッチ言っていても、
本気で直そうとする子、直る子って、
もう、本当の本当に一握りなことにびっくりします。

 

 

言われたことをそれほど重く受け止めず、楽しくやっていたり、

「そもそも、MISUMIさんは本当にピッチうるさいけど、
他でそんな風に言われたことないも〜ん。」

とスルーする子は、まぁ、いいとして。

 

残念なのは、指摘をすると、
「結構練習してるんですけどね〜・・・」と、
傷ついたように言う子たちです。

 

練習しているのに、ピッチがよくならない。

っていうか、自分には、何が正しいピッチなのかわからない。

そもそも、自分は音痴なんじゃないか。。。

という思考回路でしょうか。

 

わかります。
わかります。
よ〜〜く、わかります。

 

自分の耳に自信が持てない頃、
さんざん、「キミはピッチが悪いからつかいものにならない」
みたいに言われて、

 

家で練習するんだけど、
そもそも何が正しいかわからないもんだから、練習にもならなくて、

 

「あたしは音痴なんだ・・・

 

音痴なんだ・・・・

 

音痴なんだぁ〜〜っ!

 

と頭の中で大反芻していたあの時代が蘇る想いです。

 

 

さて、そんな私がハッキリ言えることをお伝えします。

 

悩むのは時間の無駄です。

 

Do something!(なんとかせいっ!)

です。

 

そんなときに役に立つのはロジカルシンキング。
つまり論理的に考えることで、
不可能に見えることを可能に変えて行くことです。

 

たとえば、一番の問題は、
「自分で自分のピッチの善し悪しがわからない」ということ。

 

では、なぜわからないのか?と考える。

 

この際、「どうせ私は・・・」は忘れてください。
その時点で全部終わりますから。

ピッチ、すなわちチューニングには「正しい」があります。

世の中に「絶対音感」の人なんか一握り。

つまり、ほとんどの人は、
「何かを基準にピッチの善し悪しを判定している」ことになります。

 

とすれば・・・

自分にわからないのは、その「基準」が曖昧だからではないのか?

 

そもそも、自分の「基準」はなにか?

他の人の「基準」はなにか?

なぜ、他の人にわかることが、自分だけにわからないのか?

わからないのは、どんな条件でも同じか?

 

・・・そんなことを考えてみます。

 

自分の歌を録音する。

録音した自分の歌を、悪いところに気づけるかどうか、
じっくり聞いてみる。

 

わからなければ、自分の歌にあわせてピアノでメロディを弾いてみる。

その時、ブレに気づけるのか?気づけないのか?

 

チューニングメーターで、自分の声のピッチを合わせてみる。

チューナーに、ピッチを合わせられるのか?
合わせられないのか?

合わせられないのはなぜか?

合ったら、それをどう感じるのか?

 

自分の歌のピッチが甘いのはオリジナル曲だからか?

カバー曲でも同じか?

カバーしてるなら、
そのオリジナルを歌っているシンガーのピッチは大丈夫か?

 

・・・etc.etc…

 

考えられること、検証できることは無限大にあります。

 

オタッキーだと思うでしょうか?

 

何かに必死になるということは、そういうことです。

努力とは工夫することなのです。

 

 

所詮同じ人間のやることです。

誰かと自分との圧倒的な違いが「才能」のせいだなんて考えるのは、
単なる怠惰。

 

「差は必ず埋められる」のだと信じて、その方法論を徹底的に模索する。

それができる人だけが、階段を上って行かれるのですね。

 

 

Do something!

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 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, イケてないシリーズ

Comment

  1. 中田ケイ より:

    素晴らしい。勉強になります。

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