大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「歌う環境」をつくる。

   

5年ほど前、某レコード会社のディレクターさんに連れられて、
女性R&Bシンガー、Aちゃんがレッスンにやってきました。

雑誌のモデルもやっているというスーパーな容姿と、
作詞作曲、アレンジまでこなすという才能を併せ持ち、
ダンスを踊らせてもよし、英語を歌わせてもよし、もちろん声もよし。。
おまけに性格も素直で可愛くって、こんな子いるんだなぁ・・・と、
驚くほどよくできた、レコード会社一押し、スターの卵でした。

彼女の悩みは声量がないこと。ノドが弱いこと。

「声量がなさ過ぎて、声が持ち上げられない」とPAさんに言われたというのです。

歌ってもらうと、確かにか細い。

クラブシーンなどでのパフォーマンスが多かった彼女。
重厚なサウンドに対抗するのに、このままの声では確かに厳しい。

「やっぱりカラダが細すぎるから、声が細いのも仕方ないのでしょうかね?」
とディレクターさんも不安そうです。

そのとき私は、彼女がシンガーソングライターであるという点、
そして、彼女がご家族と一緒に住んでいるという点に注目しました。

MISUMI「おうちの中って、声出せる?」

Aちゃん「いえ。マンションなんで。昼間はちょっと出せますけど。」

MISUMI「おうちで曲つくっているときって、じゃあ、声をひそめて、
内緒話するみたいに歌っているでしょ?」

Aちゃん「え?あ、はい。そうだと思います。」

そう。これなのです。
Aちゃんの歌い方のクセは、すべて、この「ひそひそ歌い」から来ていました。

シンガーソングライターは、
自分の曲は自分が歌うバージョンでしか聴いたことがありません。
あたりまえのようですが、これがボーカル力が上がらない大きな原因になります。

ましてやアレンジまでやる彼女。
曲をつくった時のボーカルのイメージが自分の脳に焼き付きます。

そのパフォーマンスが自分にとってベストになる。
と言うか、それしかない、と感じてしまう。
家族に遠慮してひそひそ歌っている声が「自分の声」になってしまっていて、
レコーディングでも、ライブでも、それを再現しようとしてしまうわけです。

意図的に息を混ぜてつくるひそひそ声は、表現のひとつとして大いにありなのですが、
声を鳴らさない、鳴らせない状態が標準になってしまうと、
声量をアップするのは非常に難しくなります。

また、この状態は、発声の最中、声帯が締め切れず、
ずっと息が漏れてしまっているため、声帯が乾きやすくなります。

声量をアップしようと、必死に息の量を増やせば、
声帯に激しく負担をかける結果にもなり、声はあっという間に枯れてしまいます。

自分の声がきちんと鳴らせる環境をつくること。
これはとても大切なことです。

声量がある人は声を小さくもできますが、
声量がなければ、音量を調節することはおろか、
長時間歌い続けることも難しいのです。

しっかりと鳴らした声が、自分という楽器のスタンダードになるように
トレーニングを積んで欲しいものです。

 - 未分類

  関連記事

あなたの呼吸、大丈夫ですか?

最近、息切れがする。 話をしてても、途中で、息苦しくなる。 年かなぁ・・・ そん …

no image
絶対的なクオリティしか口コミは起こせない

最近フリーで仕事をしたいという人が増えているようです。 時間に縛られない。 好き …

no image
発声のためのベスト・バランス

マジカルトレーニングラボの初回カウンセリングでは、 音楽経歴とともに、必ず運動経 …

結果を出すことの意味

音楽の仕事をはじめて、徹底的にたたき込まれたのは、 「この業界、努力賞はないから …

音楽という「箱」から取り出すもの

ずいぶん昔のことになります。 その奔放かつ、悪魔的とも表されたプレイスタイルに魅 …

no image
反面教師という大切な存在

「こんなピッチの悪い歌をわざわざ持ってきて、人に聴いてくださいって言える神経がわ …

no image
「これが正しい」は自分で選び取る

アーティストや学生たちと接していると、 「何が正しいのかわからなくなってしまいま …

無責任なコメントに心乱されない

まだ学生の頃だったでしょうか。 通りがかりの野外ステージでやっていた、公開オーデ …

うまく行かないときは、自分自身の棚卸しをする

世の中は結構不公平にできています。 必死に必死にがんばっていても、 なかなか認め …

no image
変声期

昨日は12~16才の男の子ばかり、8名のボイトレを担当しました。 17才くらいか …