大槻水澄(MISUMI)ブログ 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

好きになれないなら、理解しようと努める

   

「そんな、しょーもない曲ばかり聴いているから、歌がうまくならないんだ!」

ある先生に叱られた、と、思い詰めた生徒に相談を受けたことがあります。

音楽の趣味を変えろ!もっと本格的な歌を聴け!
・・・と先生に勧められた曲は古くさくて、小難しい曲ばかり。

「歌の勉強をするには、ああいうの、好きにならなくちゃいけないんですか?」
彼女の問いは切実です。

音楽には、人の好みというものが、実にハッキリと映し出されます。

実は、私、思い切って告白すれば、こどもの頃からJ-POPが苦手です。

父の影響で、生まれた時からジャズやブルースばかりを聴いて育ったせいか、
それとも、生来のあまのじゃくな性格のせいなのか、
ヒットチャートに名を連ねるような日本人アーティストに心酔したとか、
J-POPのレコードを夢中になって聞いたとかいう経験は、ほぼ皆無に等しいのです。

同級生みんなが夢中になっているJ-POPを、
素直に「いいね」と言えたことは、正直、一度もありません。
むしろ、嫌悪感が先に立って、耐えられないと感じました。
その感情を悟られないようにするのに必死でした。
今でも、プライベートで邦楽を楽しむなどということは皆無です。

嫌いなものは嫌い。好きになれないものは仕方ありません。

そんな私に変化が訪れたのは、ボイストレーナーになってから。

私の心を鷲づかみにした素晴らしい音楽を、生徒たちに知ってもらうには、
まず、彼らの愛する音楽を、
自分が知ることからはじめるのがフェアと感じたことがきっかけでした。

このアーティストのどんなところが好きなの?
どんなところがカッコイイの?
マネしたいと思うのはどんなとこ?
どの曲が好きなの?
その曲の、どの辺にどきどきするの?

そんな質問を繰り返し、彼らの耳と感性で、彼らの大好きな音楽に耳を澄ましたら、
J-POPは全く別ものに聞こえて来ました。
今まで、感じたことのなかった、
J-POP独特の歌い回し、
日本語の歌詞特有のわびさび、音、感情表現、
日本人の琴線に触れる声の音色、メロディー・・・
そんな情報が、どんどん自分の中に流れ込んできます。

なるほど。なるほど。
すごいね。魅力あるね。
こういうの、好きっていうの、わかるよ。

感情レベルの趣味趣向は一朝一夕では変えられません。
でも、情報のレベルでなら、
どんな趣味趣向も、人は受け入れられるものだと学びました。

ちょっとした努力で、人は、互いへの理解を深めることができる。

ときに、その理解から、新たな感性の扉が開いて、
新しい「好き!」を見つけられることもあるかもしれません。

あんなにJ-POPが苦手だった私でさえ、
今では、我が家にやってくるアーティストの歌に、
じーんとしてしまうことさえあるくらいです。

こちらの世界を知って欲しかったら、まずは迎えに出向いてみる。
聴いて欲しい音楽、学んで欲しい歌があったら、
そのよさを情報化して、少しずつ興味を駆り立ててゆく。

そんな小さな積み重ねが、人の心に影響を与えていくもの。

そんなことから、音楽の土壌を育てていかれたらステキだな、と思うのです。

 

 - 未分類

  関連記事

no image
仕事が嫌ならいつでもリセットすればいい

レコーディングの仕事に呼ばれるようになったばかりの、 駆け出しのころ。 現場の雰 …

no image
“I know what I’m doing”

「今の、どうでした?できてませんでした?」 そんな質問を繰り返す子に限って、レッ …

no image
Obsession〜頭にこびりついて離れないもの〜

プロとアマチュアの分岐点はどこにあるんでしょう? 何かが好きで、夢中になることは …

no image
話す発声と歌う発声?

「話す発声と歌う発声って違うんですよね?」 よく耳にする、不思議な疑問文です。 …

no image
「こんちくしょうっ!」はチャンスの証

結果が出せない、大きな失敗をした、 彼氏(彼女)にふられた、人に認められない、陰 …

no image
自分のチェック機構を磨け!

「ちゃんと練習したんですけどね・・・」 ちっとも上達していないことを指摘されて、 …

no image
変声期

昨日は12~16才の男の子ばかり、8名のボイトレを担当しました。 17才くらいか …

no image
上達と進歩は一瞬でやってくる!

どんなに練習しても、ちっともうまくならない・・・ そんな時はだれだって、心が折れ …

no image
見せ方のうまい人の共通点

自分をどう見せたいか。どう見せるべきか。 人前に立つときのスタイルは誰もが気にす …

音楽という「箱」から取り出すもの

ずいぶん昔のことになります。 その奔放かつ、悪魔的とも表されたプレイスタイルに魅 …