「プロになりたい」って一口に言ってもね・・・
少し前、若手売れっ子ドラマーがインタビューで、
「ドラムを始めたときから、歌バンの仕事に憧れていたので、
この仕事につけて本当に幸せです」というようなことを言っていて、
そうか、そうだよね、と、感動に似た、
不思議な気持ちを覚えました。
「バンドやりたい」「メジャーデビューしたい」ということと、
「プロになりたい」ということは、似て非なるもの。
もっと言うと、
「プロフェッショナルになりたい」ということと、
「音楽で食べていきたい」ということも、実は、決定的に違います。
一口に「ミュージシャン」と言っても、
絵の世界に、
画家やイラストレーターやデザイナー、
漫画家、アニメーション作家などなど、
中には、聞いたこともないような仕事さえあるように、
その中身は実に多種多様なものです。
このあたり、業界の外にいると、まずわかりません。
だから世間的には、
「プロになりたい」イコール、
フリーターで、好きなことやって、
おもしろおかしく暮らしたい、で、
「プロなのにテレビに出てない」イコール、
食えない貧乏ミュージシャン、
・・・的な扱いを受けることになってしまうのです。
私自身、学生時代にもっとも強く願ったことは、
「プロの世界でプロと認められたい」ということでした。
しかし、それが、具体的にどういうことか、
自分でも全然わからなかったんですね。
サポートコーラスとして、全国ツアーをまわったり、
テレビに出たりするような、
いわゆる「歌バン」のお仕事をさせてもらうようになっても、
自分の居場所がみつけられなくて、
日々、居ても立ってもいられないような焦燥感に苛まれていました。
それが、名指しでスタジオに呼ばれて、
レコーディングのお仕事をさせてもらったとき、
あ!これだ!とズドンと腑に落ちたのです。
「地声で上のG♯、一発カキーンとくれる?」
「ここ、どういうコーラス入れるとカッコいいかな?」
「ラスト、バリバリの、ソウルっぽいフェイク入れたいんだけど?」
「英語の歌詞、ちょこっと乗っけてくれる?」
「ラップとかできないかな?」
毎度毎度、現場で、
投げ掛けられる無理難題にも、
「売られた喧嘩は買う」をモットーに、
立ち向かいました。
相手のイメージ通り歌えなくて、
胃の痛い思いをしたことも、
譜面が読めなくて冷や汗をかいたことも、
体調が悪くて、
「いい声が出なかったらどうしよう?」と、
プレッシャーで泣きそうになったことも、
何時間も待たされたあげく、
10数トラックも歌わされて、
ボロボロになってスタジオを出たことも、
数え切れないくらいあったけど、
それでもなんでも、
スタジオの仕事が大好きでした。
名指しで呼んでもらって、
いろんなアイディアや意見を求められて、
歌い終わった最後は、現場全体が
いやーよかった!最高だった!と、盛り上がってくれる。
十分なギャラまでいただける。
参加した作品がちゃんとクレジットつきでお皿(CD)になって、
テレビや街角で流れるのを耳にするのも嬉しかったし、
なにより、日本のど真ん中の、
最高にプロフェッショナルな人たちと、
日々新しいものをつくっている、
こんなちっぽけな自分が、
確かに求められ、認知されているという実感が、
素直に、心地よかったのですね。
引き続き、世間の人たちからは、
「食べてくのやっとでしょう」
「お店で歌ったりしてるの?」
という扱いを受けていましたが、
これこそが、適職ということなのだろうと、
しみじみ思ったものです。
多くのミュージシャンが、
この「適職」に悩みます。
冒頭で紹介したドラマーくんのように、
自らの目標を明確に掲げ、
必要なスキルを磨き、
必要な人に会い、
ぶれることなく1歩ずつ、
前に進んで行かれる人というのは、実に希有です。
やりたいと心から願うことが、
なかなか形にならないこともあります。
自らの可能性や、未来が、
不安で不安でたまらないことも、
たくさんある。
思ってもいなかった方向に道が開けて、
戸惑うことだってあります。
どんな苦境に立たされても、
あっちこっちウロウロしないで、
ひとつの道を、愚直に、真っ直ぐに、
進んで行かれるかどうか。
結局最後は、
「好き」を貫いた人しか残れないんだよなと、
しみじみ、振り返っています。
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