歌える歌ばっかり歌っていたら、いつまで経ってもうまくならない。
「今の自分の実力だったら、どんなの歌うべきですかね?」
これは、「自分に向いている歌ってどんなのですか?」というのと同じくらい、
よく聞かれる、なぞの質問のひとつです。
これが何かのオーディションで歌うというなら話はわかりますが、
そうではない。
レッスンで歌う練習曲や、
これから自分のレパートリーにして行くべき曲のことです。
ことばを変えると、
「今の実力にみあった課題曲をください」です。
歌をはじめたばかりのこどもや、
趣味でたしなんでいるおとなに言い出されたら、
そんな基本的な提案もしていないこちらの責任ですが、
仮にも歌を志している学生にこんな質問をされると、
ガッカリします。
小学生のピアノのおけいこじゃあるまいし、
今の自分の実力に見合った歌なんか歌ってたら、
いつまで経ってもうまくなんないじゃないのっ!
と、吠えたい気持ちをぐっとこらえて、
(ただでさえ、コワい、コワいと言われているし)
「今、自分が心の底から歌いたくって、
何時間でも何日でも練習できる曲を選ぶのが一番だよ。」と言うと、
「あ、でも、キーがちょっと」とか、
「好きなアーティストの曲は自分には向いてないと思うんですよ」と、
四の五のおっしゃる。
「キーなんかさ、練習してればどんどん変わるし、
そもそも、真剣に取り組んだわけじゃないのに、
向いてるとか、向いてないとか、なんでわかるの?」
と、やんわり(のつもりで)言うと、
やや風向きがまずい方向になびいていることに、
やっとお気づきになる学生たち。
「あ、そうですよね。
でも、声質が向いてないとか、
そもそも、そんな音域を歌うのが無理とか、
そういうことはないんですかね?」
などと、おずおず、いや、どんな風に言い出しても、
言われることはただひとつです。
「そういうのは、やってみてから考えて」。
挑戦するから、
できないことと向き合える。
何が足りないのか、何をするべきかが、
リアルに体感できる。
できるようになるための道筋を、模索できるし、
トライ&エラーの中から、
もっと自分のやりたいことを見出すこともできる。
そもそもさ、
できる道筋を見出せないまま終わるってことは、
それほどやりたいわけじゃなかったんじゃないの、
と言われても仕方ないんです。
王道でも回り道でもショートカットでも裏道でも、
どんな道だっていい。
必ず、道はみつかる。
そんな道筋を、探し続けることも、修行です。
高尾山にばっかり何百回上ったって、一生富士山は登れない。
憧れを形にできる自分を、どうか育ててください。

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