大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

歌える歌ばっかり歌っていたら、いつまで経ってもうまくならない。

   

「今の自分の実力だったら、どんなの歌うべきですかね?」

これは、「自分に向いている歌ってどんなのですか?」というのと同じくらい、
よく聞かれる、なぞの質問のひとつです。

これが何かのオーディションで歌うというなら話はわかりますが、
そうではない。
レッスンで歌う練習曲や、
これから自分のレパートリーにして行くべき曲のことです。

ことばを変えると、
「今の実力にみあった課題曲をください」です。

歌をはじめたばかりのこどもや、
趣味でたしなんでいるおとなに言い出されたら、
そんな基本的な提案もしていないこちらの責任ですが、

仮にも歌を志している学生にこんな質問をされると、
ガッカリします。

小学生のピアノのおけいこじゃあるまいし、
今の自分の実力に見合った歌なんか歌ってたら、
いつまで経ってもうまくなんないじゃないのっ!

と、吠えたい気持ちをぐっとこらえて、
(ただでさえ、コワい、コワいと言われているし)

「今、自分が心の底から歌いたくって、
何時間でも何日でも練習できる曲を選ぶのが一番だよ。」と言うと、

「あ、でも、キーがちょっと」とか、
「好きなアーティストの曲は自分には向いてないと思うんですよ」と、
四の五のおっしゃる。

「キーなんかさ、練習してればどんどん変わるし、
そもそも、真剣に取り組んだわけじゃないのに、
向いてるとか、向いてないとか、なんでわかるの?」

と、やんわり(のつもりで)言うと、
やや風向きがまずい方向になびいていることに、
やっとお気づきになる学生たち。

「あ、そうですよね。
でも、声質が向いてないとか、
そもそも、そんな音域を歌うのが無理とか、
そういうことはないんですかね?」

などと、おずおず、いや、どんな風に言い出しても、
言われることはただひとつです。

「そういうのは、やってみてから考えて」。

挑戦するから、
できないことと向き合える。
何が足りないのか、何をするべきかが、
リアルに体感できる。

できるようになるための道筋を、模索できるし、
トライ&エラーの中から、
もっと自分のやりたいことを見出すこともできる。

そもそもさ、
できる道筋を見出せないまま終わるってことは、
それほどやりたいわけじゃなかったんじゃないの、
と言われても仕方ないんです。

王道でも回り道でもショートカットでも裏道でも、
どんな道だっていい。
必ず、道はみつかる。

そんな道筋を、探し続けることも、修行です。

高尾山にばっかり何百回上ったって、一生富士山は登れない。
憧れを形にできる自分を、どうか育ててください。

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, ある日のレッスンから, 質問にお答えします

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