大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

その時間を「練習」と感じるか、感じないか。問題はそこです。

   

「毎日、何時間勉強してる?」
「なにやってるの?問題集?」

試験前になると、
成績優秀な子を相手に、
こんな質問をしている子がいたものです。

人が何をしているのか気になる人がする質問は、
おとなになっても変わりません。

「毎日何時間仕事してるの?」
「いくらくらい稼いでるの?」
「仕事って、なにやってるの?」

ところが、本当に優秀な人は、
たいがいこんな風に答えます。

「いやー、そんなにやってないよ。」
「まだまだ、たいしたことないよ。」
「何って、なんだろう・・・。」

こう言われると、
「あー、できるヤツに限って、
なんにもやってないとか、
たいしたことないとか言うんだよな。」
と感じてしまうもの。

しかし、です。

問題は何を「勉強」と思い、何を「仕事」と思うか。
どのレベルを「できる」とみなし、
何を「努力」と感じるか。

この基準を変えていかないと、
いつまで経っても、

あの人はあんなに何時間もがんばっているから、
あんなにいい点とれるんだ。
自分には無理だ。

で、終わってしまいます。

例えば、

勉強が好きな人は、
学校の行き帰りの電車の中で、
自然に参考書や問題集を広げます。

ちょっとわからない言葉が出てくると、
何気なく、辞書を引いて、
それをメモします。

辞書サーフィンをして、
新しいことばに出会うと、またメモです。

興味のあるトピックがあれば、
図書館に出向いたり、
本屋さんに出かけたりもします。

テレビを見ていても、
「ふと、そういえばこの間やった時事問題に、
この話題が出ていたな。」
と気づいて、新しい情報を手に入れます。

洋画を見ていても、
耳にした知らない単語の意味をチェックしたり、

歴史物のドラマを見て、登場人物の名前をググったり、

気になる食べ物の原材料を調べたり、
産地や原産国の情報をチェックしたりします。

勉強のためにやっているのではありません。
楽しいからです。興味があるからです。

だから、このすべての時間は、
彼らの「勉強」の時間にカウントされていないわけです。

時計とにらめっこしながら、
「よし!今日も2時間参考書読んだ!」と思う人とは、
差がつくのは当たり前ですね。

歌や楽器の練習も同じです。

練習音源を流して発声練習をする。
歌詞カードを片手に、曲を何回か練習する。
歌詞を覚える。

この時間を「練習」と感じるか、感じないか。
「がんばっている」と感じるか、
「いやー楽しい」と感じるか。

本当に歌に夢中になっている人は、

起きた瞬間、思わず声を出して、
ノドの状態をチェックしてしまう。

歌うためにはカラダよね、と、
エクササイズをしたり、
カラダにいい食べ物をチョイスしてしまう。

歯磨きをしながら、鼻歌を歌ってしまう。
思わず発声練習をしちゃう時さえあります。

朝シャンしながら、
覚えた歌詞の確認をする。

通勤通学の移動時間に、
音源を聞いて、細かい音をチェックしたり、
自分が歌った歌の録音を細かく分析してみたりする。

仕事のすき間時間に、
トイレや屋上で、
スマホで音楽を聴きながら鼻歌を歌ったりする。

友人が飲みに行ったり、
遊びに行ったりするのを断って、
楽器屋やCDショップに出かけたりする。

YoutubeやiTunesで次々とお気に入りのシンガーを見つけては、
歌の研究に没頭する。。。

自室に閉じこもって、さぁ、歌おうと思う時間、
またはひとりでカラオケ屋さんやスタジオにいる時間が、
彼らが実際にカウントする「練習時間」となるのでしょうが、

本当に大切なのは、目に見えない、
カウントされない、「日常」なのです。

好きなことしか上達しない。
好きなことでしか、他の人に勝てない。

「日常」が人をつくるのです。

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