大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「なんか好きじゃない曲」を歌わなくちゃいけない時のヒント

   

バンドをやってると、
「なんか好きじゃないな」という曲を
歌わなくちゃいけない時というのが、

少なからずあります。

いや、バンドだけじゃない。

ソロアーティストだって、
「プロデューサーに歌えって言われたんですけど、
こういうのやりたくて歌手になりたいわけじゃないのに」
みたいなこともあれば、

「大作曲家にお願いした曲が気に入らないって言えなくて」
みたいなことだって、いや、普通にあります。

そうそう、誰かのお祝いやパーティーで、
全然趣味じゃない曲をリクエストされて歌わなくちゃいけないとかなんて、非常にありがちです。

そんな時、鉄の信念を持ってる人や、
頑として自分のスタイルを崩さない人なら、
空気が悪くなろうが、顰蹙買おうが、
なんなら事務所をクビになろうが、
「嫌と言ったら嫌なんで」を貫くのでしょうが、

まぁ、なかなかそういうわけにもいかず、
家に帰って、曲を聴きながら、
「こんなの人前で歌うの、嫌だよなぁ」と、
悶々とするわけです。

こんな時、一番やっちゃいけないのが、
悶々とした感じを引きずりながら人前で歌うこと。

これはもう、お客さんにも、音楽の神様にも失礼極まりない。

まして「これは○○さんのリクエストで、
上手く歌えるかわかりませんが、とりあえず歌います」
なんていう、余計なMCをするなんて(結構いがちですが)言語道断です。

こんな時やるべきことは2つ。

ひとつは、歌いたくなるくふうをすること。

もうひとつは、
「この曲、歌いたくてたまらないぞ」と、
自分で自分を騙すこと。

歌いたくない歌には、必ず歌いたくない理由があるはずです。

ちなみに、私は、ちょっと古くさい、
下世話なサウンドが(弊社比)大の苦手で、
イントロがはじまった瞬間、
小っ恥ずかしくて逃げ出したくなります。
あと、いわゆる歌謡曲っぽい歌は、本当に苦手です。

そんな歌を歌わなければいけなくなってしまったら、

まず、自分はその曲のどこが無理なのかを
徹底的に探って、可能な限りそこを排除します。

例えば、バンドの人にお願いして、
コード進行を変えてもらうとか、
フレーズをちょっと変えて弾いてもらうとか。

歌謡曲的な歌なら、歌詞を全部英語に書き直して、
ちょっとR&B風な味付けで歌ってみるとか。

カバーバージョンを聞きまくって、
なんとか自分にしっくりくるアレンジや
歌唱スタイルのお手本をみつけてみるとか。

まぁ、そんな、あの手この手を試みても、
メンバーに、
「わかってないね」とか、
「ここ変えたらやる意味がない」などと取り合ってもらえないこともあるし、
「日本情緒が大事なんでしょ!」と、
オリジナル通り歌うことを要求されることもあります。

好きじゃない歌というのは、そもそも、
どこがいいのかわからないから、
自分がちゃんと歌えているか否かという判断基準もないわけで、
実際、人前で歌うのは、めちゃくちゃ恐いものです。

しかし、歌うからには、
とにかく、好きなところを、1箇所でも多く探す。
この5行目の歌詞は、そう言われれば悪くない、とか、
このフレーズを歌うときの自分の声がいいね、とか、
サビで盛り上がるみんなの顔が目に浮かぶとか、

オリジナルアーティストがいるなら、
YouTubeなどでお客さんが喜んでいる姿を見るとか、

そうやって、女優よろしく、
自分があたかもその曲を好きで
歌いたくってたまらない、という気分を演出するのです。

シンガーというものは、
多かれ少なかれ役者のようなところがあって、
自己暗示がうまいもの。

実はそうやって歌ってみたら、
意外なほど自分にハマって、
「あれ、なんだいい曲じゃん」となった曲もあったりします。

「好きじゃない曲」をやっている心当たりのある人は、
ぜひ試してみてください!

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