時代が変わって、「歌が好き」という人たちの思いは、 どれだけ変わったのだろう。
「困ったことがあったら本屋へ行け。
自分が困っていることは、他の人も同じように困っていて、その解決策を持っている人がきっといる。
どうしてもその解決策を書いた本がみつからなかったら、その時はお前がその本を書け」。
苦しい時ほど心を閉ざして、一人悶々と悩む私を、
いつも遠くから見ていてくれた父が遺してくれたこのことば。
あれはいつだったのか、
どんなタイミングで言われたことばだったのか、
さっぱり思いだせないのだけれど、
本を愛し、本を信じた父のことばは、
ずっと私の中に生き続けてきました。
ヴォイストレーナーという仕事を引き受けて、
真っ先にしたのは、本屋さんを巡ることでした。
プロとして歌うということと、
人に教えるということは、何が違うのか。
人は一体何を知りたいのか。何を知るべきなのか。
そんな漠然とした想いの答えを探しに、
新宿紀伊國屋、神保町三省堂、八重洲ブックセンター、ヤマハ、山野楽器、
タワーレコードの洋書売り場、
果ては、都立中央図書館まで、
答えを求めて、巡礼のように巡りました。
インターネットのない時代です。
情報の源は、本か、人か、だけでした。
ところが、私が求めている答えはどこにもない。
いや、何を求めているのかすら、わからない。
どんな本も、知りたいことの断片やヒントが書かれているだけで、
これだけ歌ってきた私が、こんなに考えても、探してもわからないことを、
一体全体、学生や歌を学びたい人たちは、どうやって探し当てるんだろうと、
ただ、ただ、途方に暮れました。
「どうしてもその解決策を書いた本がみつからなかったら、その時はお前がその本を書け」
途方もない荷物をどかんと背負わされたような、
それでいて、新しい扉を開いてしまったような思いでした。
手当たり次第本を読んで、
インターネット時代になってからは、海外の論文も読んで、
自分を研究対象として、山ほど仮説を立てては検証し、
生徒たちに教えてはデータを蓄積し、
書いて、書いて、書いて、書いて。。。
気が付いたら、20年あまりの時間が経っていました。
時代は大きく変わって、
声や歌に関する情報だって、ネットを開けば、洪水のように流れていて。
それで?
「歌が好き」という人たちの思いは、
あのとき、本屋でたたずんでいた私と、
どれだけ変わったのだろう。
誰かがちゃんと、そばにいて、
行くべき方向を指さしてくれるような安心感を持って、
歌の道を歩めているのかな?
時代が変わっても、音楽が変わっても、
歌が好きだという人たちの真っ直ぐな思いは、
歌の本質は少しも変わらない。
こんなに時間がかかってしまったけれど、
この私のがむしゃらさは、まだ誰かの役に立てるかな?
自分自身に対する問いかけが終わることはないけれど、
少なくとも、私自身が探していた答えは。
やっと本屋さんに並べられた気がします。
紙が電子になったって、
ラジオがYouTubeになったって、
カメはカメにしかできないことを、一所懸命やるのみです。
まだまだ、万年、がんばりまんねん。
MTLサマースクール2023開講いたします!
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