「厳しい先生」
2015/12/20
「MISUMIさんは、なんで僕のことだけ叱らないんですか?」
そんな風に、言われたことがあります。
まだボイストレーナーとして駆け出しだった頃のこと。
そう言ったのは、ピッチがとても悪く、
なかなか歌の指導にまで至れない男の子でした。
ぐんぐん伸びていく同級の子たちの中で、
ひとり取り残されて行く彼。
私自身、自分の力不足を感じ、焦っていました。
グループレッスンだったこともあり、
彼が劣等感を感じないように、少しでも自信をつけられるようにと、
ちょっとでも音をはずさずに歌えると、
「うん!いいね!できたね!」とほめていました。
「TやYちゃんには、いろいろなこと厳しく注意するのに、
僕の歌をほめてくれるのは、
僕があんまりヘタだからなんですよね?」
ほめることが人を傷つけることもあるなんて、
その時はじめて知りました。
「人に注意されなくなったら気をつけろ。
それは、人に、『こいつはダメだ』とあきらめられたか、
『もうこれ以上伸びる余地はない』と思われているかのどちらかだ。」
そんな父の言葉を改めて思い出しました。
若者たちを指導する人間として、
現在、大切にしていることが3つあります。
1. グループレッスンなどで、どんなに時間がないときも、
彼らの話をちゃんと聞くこと。
10人いれば10人、期待していること、悩んでいることが違います。
グループだからと、一方的にこちらの想いだけを押しつけていたのでは、
なかなか心に届かない。
たとえ少しでも、ひとりひとりと会話する時間を持つことで、
彼らの心の機微を感じ取れる。少なくとも、感じ取る努力ができる。
ともすれば忘れがちな、コミュニケーションの基本に立ち返ることが、
本当に大切だと考えています。
2. 言いにくいことでも、的確に指摘すること。
一所懸命練習している子や、悩んでいる子たちに、
ダメ出しをするのは、なかなか辛いものです。
まわりの子たちがよく出来るとき、ひとりだけ名指しで「ダメだ」という。
人から優秀と言われて、自信満々の子に、厳しい言葉をかける。
明るくて、素直な子に、注意する。。。
どんなときでも、人に苦言を呈するのは、勇気がいります。
しかし、ダメ出しをするのは、彼らの可能性を信じているから。
ヘソを曲げる子もいる。落ち込んでしまう子もいます。
ときに、お門違いなことを言ってしまうこともあります。
そこをあえて意見し、解決するためのヒントを提示するのが指導者の仕事。
そして、一所懸命、学ぼうという人たちに向ける愛情だと信じています。
3. 「ほめる」タイミングをはずさないこと。
いいと思ったら、すぐにほめる、がんばっていたら、評価する、
そんなタイミングをはずさないこと。
人は、ほめられれば自信がつく。リラックスして、いい結果が出せる。
「ほめる」力は絶大です。
ときに、「がんばったね」とほめて、
「え〜?そうですか?全然練習してませんけど」
なんて言われることもありますが、
それでも、いいと思ったことに、素直に反応すること、
それを言語化することはとても大切だと思うのです。
大学の試験期間に入りました。
学生たちを見ていると、
限りない可能性に、こちらがどきどきします。
そして、彼らの年頃から、現在に至るまでの自分の歴史を想い、
その道の途中で出会った、たくさんのミュージシャンや、
アマチュアのままで終わったミュージシャンの卵たちを想います。
可能性は、みな同じだけ持っています。
私はそう、本気で信じています。
音大生ならみな、ミュージシャンになりたいというわけでも、
ミュージシャンになれれば、誰もが幸せというわけでもないでしょう。
人生に悔いを残さないよう、生きるなら、
学校をサボって、思いきり遊ぶのも、
練習や勉強そっちのけで、バイトにいそしむのも、全然OK。
ただ、私は指導する立場として、
「あのとき、もう少しがんばっていれば・・・」
と後悔する学生をひとりでも減らすこと。
「厳しかったけど、がんばって本当によかった」
と思う学生をひとりでも増やすこと。
そこに焦点をあて、今日も厳しい言葉をかけ続けるのであります。
ふぁいとっ!
関連記事
-
-
「とにかく、ゆっくり」から、はじめよう。
以前、書道家の方に自分の名前の書き方というのを習ったことがあります。 先生が繰り …
-
-
勇気を出して、「酷いことを言う人」になる。
言ってあげた方がその人のためとわかっているけれど、 言えば必ず、相手はショックを …
-
-
「課題曲」って、どうよ?
大学4年になったばかりのこと。 清水の舞台から飛び降りる気持ちで通い始めた歌の学 …
-
-
いい歌は左脳を麻痺させる。
ものすごくうまいのに、ものすごく退屈な歌、というのを、 たくさんたくさん聞いてき …
-
-
「人生変わりました」
「MISUMI先生のおかげで、人生変わりました」 先日、某会社の社長さんが、生ま …
-
-
だって、そう聞こえるんだもん。
MTLワークショップの資料作り、 予想通りというか、予想を超えて難航しました。 …
-
-
「先生」と呼ばれたら、自分の胸に問うべき質問。
人には誰にも、その人特有の成長のスピードというものがあります。 小 …
-
-
ティーンエイジャーという名の憂鬱
プライベートレッスンでは、事務所さんやレコード会社さんから、活躍中のアーティスト …
-
-
100万人と繋がる小さな部屋で。
デビュー前からヴォイトレを担当している、 アーティストのライブに行ってきました。 …
-
-
「あ、あれ、まだ書いてない」
「MISUMIさんのブログって、声や歌の話、ほとんどないですよね。」 そんな風に …
- PREV
- 歌の学校やレッスンに通う 5つのメリット
- NEXT
- 慣れたらあかん!