学習は、頑固で怠惰な自分の脳との戦いだ!
本来外来語であることばを、
そのまま日本語の音に置き換えただけの「カタカナ語」。
サウンド的にさまざまな表情のある外来語を
母音の少なさでは世界有数の言語である日本語にあてはめるのですから、
もちろん、ずいぶんと無理は出てきます。
ブルース(ブルーズ)
ルーズ(ルース)
人間ドッグ(にんげんどっく)
ベット(ベッド)
プラッチック(プラスティック)
セメンダイン(セメダイン)
トレモノ(トレモロ)
デシート(レシート)
アボガド(アボカド)
ギブス(ギプス)
シュミレーション(シミュレーション)…etc.etc…
あれ?どっちだっけ?と思わず辞書を引きたくなるものから、
ぷっと吹き出してしまうような、突っ込みどころ満載のものまで、
その種類は実にさまざま。
もちろん、「日本語の独自性を出すためにちょっぴり変えている」
などというわけはなく、
単に、「そう聞こえたから」、そう標記し、
「そう思い込んでいるから」、そう聞こえるのです。
日本語は子音と母音がワンセットで発音されることが多いので、
日本人は子音で終わる音の聞き取りは苦手です。
そもそも、アクセントの位置が変化したり、
曖昧母音や二重母音もない外来語のことばを
日本語の5つの母音で置き換えるのは無理があるのですが、
そこは柔軟な日本人。
自分の知っている音の枠にちゃちゃっと置き換えて解釈してしまうのですね。
かつて、アニメの曲の別バージョンをつくるという、
プロジェクトに関わったことがあります。
おなじみのルパン三世のジングル部分。
ディレクターさんが、
「じゃ、次はあの、ルパンルパ〜ン♪のとこ、歌って。」というのです。
「あぁ。ルパンThe Third!♪ですね」と言うと、
「MISUMIちゃん、面白いこと言うね〜」といわんばかりに、
オリジナルを大きなスピーカーで再生してくれました。
「ほらね〜。ルパンルパ〜ン♪って言ってるでしょ?」
私の耳には、「ルパンThe third!」にしか、どうやっても聞こえません。
人の思い込みってすごいなぁと、思ったものです。
(もしかして、私の方が思い込みで
そう聞こえていたのかも知れませんが・・・)
人は、自分にとって新しい情報を、
既知の情報や、理解の枠内で処理し、定義づけようという傾向があります。
素早く行動に移るためには、未知なる情報をいちいち分析し、
新しい定義や分類カテゴリーをつくりあげるより、
すでに、定義、分類した、既知の情報が格納されている場所に、
新しい情報をも、あてはめて分類してしまうことの方がずっと楽だからです。
しかし、既知の情報の定義に、新しい情報のすべてをあてはめてしまえば、
当然、未知の、どこにも当てはめられない情報を
切り捨てなければいけなくなります。
そして、その、
「未知の、どこにもあてはめられない」微妙な情報こそが、
学ばなければいけない、新しい情報のエッセンスなのです。
学習の最大の難しさは、入って来る情報そのものの難解さよりも、
拡大解釈や縮小解釈して自分の枠ですべての情報を処理しようとする、
自分自身の脳の頑固さ、怠惰さと戦うことかもしれません。
英語でも、音楽でも、科学でも、
新しい情報は、まず、ありのままに受け入れる。
そんな柔軟な、キャパシティの大きな学習力を持ち続けたいものです。
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