大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ペダル、踏んじゃだめよ。

   

小学校4年の時に、友だちの弾くピアノの調べに胸を射貫かれ、親に頼み倒すこと3年あまり。
なんとかピアノを買ってもらったのは中学1年の夏休みのことです。

それまで家にあった電子オルガンは、それはそれはイカさない音でしたから、
我が家にやってきたピアノを初めて弾いた瞬間は、本当に胸が震えました。

ピアノには、なんといってもペダルがある!
ペダルを踏みながらピアノを弾くと、どんな曲もすんばらしく聞こえて、なんだか、自分がめちゃくちゃうまい気がしたものです。

ところが、です。
「ペダル、踏んじゃダメよ!」
得意げにペダルを踏みながら弾いていると、先生はいつもそう言うのです。

(だって、ペダル踏まなかったら、気持ちよくないじゃん。。。)

そう言いたげな私の気配を察して、先生はこう言います。

「ペダル踏むと、うまく弾けてる気がするでしょ?でもね、ペダルなんか踏まなくても、素敵に弾けるようにならなくちゃ、うまくならないのよ。」

そんな風に言われるたび、ペダルを踏んじゃいけないなんて…すっごい味気ない音になっちゃうじゃんと、どうにも納得できなかったものです。

ピアノのペダルは、カラオケのエコーとおんなじ。
わぁ〜んという豊かな響きが、私たちを「弾けてる気分」「歌えてる気分」にしてくれる。
酔っぱらった時さながら、繊細な感覚をテキトーに麻痺させてくれる。
お風呂で歌う時とおんなじ。
気分よく歌いたいんだから、それでいいじゃん。なんですよ。

ただね、上達したいなら、話は別。
ホントに素敵な演奏はペダルなんかなくたって成立する。
ホントに素敵な歌はエコーなんかかけなくたって素敵なもの。

細部まできっちり神経を行き渡らせて歌うから、よき歌になる。
繊細なパフォーマンスになる。

そこにペダルや、エコーの心地よい共鳴サウンドが入った時が無敵です。

今でもピアノ弾く時は、ペダルはマストアイテムの私。
だって、気持ちよく弾きたいからいいんだもん。
うまくならなくたって、いいも〜ん。

よい子はマネしないでね。


メルマガではリズムの話を何回かに分けて配信中。
ご購読はこちらから。もちろん、無料。バックナンバーも読めます。
ご登録いただいた方には、『朝から気持ちい声を出すためのモーニングルーティン10』をプレゼントしています。

 - My History, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法

  関連記事

「まったくおなじ音」は2度と出せない?~SInger’s Tips #19~

長年歌をやっていて、 もっとも難しいと感じることにひとつに、 「おなじ音をおなじ …

「迷い」に耳を貸さない覚悟

「これだ!」と閃いて、 ワクワクはじめたはずなのに、 なぜかうまくいかない、 こ …

作業量の多さにひるまない

英語を勉強しはじめたとき。 英語の辞書の重さをずっしり感じながら、 「こんなにた …

情報じゃない。オーラに感動するんだ。

学生時代から本屋さんが大好きでした。 それは今でも全く変わらなくて、 本屋さんと …

「切り際」で、歌は素晴らしくも、へったくそにもなる。

昨日、「音の立ち上がり」は、 歌い手の声の印象を大きく左右する、 というお話をし …

「完全無欠」を更新する。

「自分の頭の中にあることのすべてを文字化したい」などという、 イカれた考えに捕ら …

人は、エネルギーに魅了されるのだ!

「音楽はエネルギー」     そんな風に考えています。 &n …

「声が届かないって、こんなに自己肯定感を下げるものなんだ」。

何年か前のこと、 風邪をこじらせて、声がカッスカスになってしまいました。 よほど …

駆け出しの若い女は舐められる

まだまだ駆け出しで、 レコーディングのお仕事も、ぽつぽつと来はじめたばかりの頃。 …

大きな変化は一瞬で起こる

変化はいきなりやってくる。 長年人間をやってきた実感です。   毎日が …