大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「マスターベーション」とか言うな!

      2016/06/12

歌は音程のついたことば。

テクニックがどんなにすぐれていても、どんなに巧みな音楽的表現がなされていても、
ことばに魂、念が乗ってなかったら、聞き手は何にも感じません。
面白くないなぁ・・・って感じられる歌って、そういうことです。

だから、

ことばを大切に歌いなさいよ。
歌は心ですよ。
思いを込めて歌うんですよ。。。。と、

まぁ、先生と言われる人は、そういう指導をするわけです。

しかし、一方で、
「私、こんなに想いを込めて歌っているんです!!」みたいなのも、引いてしまう。

いきなり目を閉じて、顔をしかめて、
思い入れたっぷりに歌われれば歌われるほど、
聞き手の気分は、なんか、冷めてしまう。

え〜・・・じゃあどうすりゃいいんですかぁ〜〜??

という声が聞こえてきそうです。

そうそう。どうすりゃいいんでしょうね。。。。

大学時代のお話。

あちこちの大学を渡り歩いて歌っていた私。
そこそこ歌にも自信を持っていました。

あるとき、他大学のビッグバンドで活躍していた、
ちょっとイケメンの年下の男の子がライブを見に来てくれて、

その感想を伝えたいと電話をくれたのです。

電話口で、彼はこう言いました。

「MISUMIちゃんってさぁ、どうして目を閉じて歌うの?
なんか、マスターベーションにしか見えないんだよね」

(マ・・・マ・・・マスター・・・ベ・・・)

まだうら若き乙女であった私は、そのことばの強烈さに打ちのめされながらも、
つとめて冷静に受け止めるふりをしていたのを、今でも鮮明に覚えています。

どんなに思いを込めて歌ったって、伝わらなければ意味が無い。

思いを伝えたい相手、オーディエンスに、
「はいはい。思いを込めてるのね」と思われたら、ダメなわけです。

だってね。

目の前にいる人が、自分の熱い想いを伝えようとするばかりに、
いきなり目を閉じて、顔を赤くして、前のめりで、
がぁ〜っと感情ほとばしるままに愛情表現してきたら、
きゃあ〜。。。勘弁してぇ・・・と、どん引きしますよね。

もう完全にイタい人と感じて、二度と会いませんわね。

感情を伝えることと、
「私の激しい思い、わかってぇ〜」と、押しつけることは、もう全然違うこと。

伝えたいこと。実際に相手が受け取ること。

そのギャップを埋めていくのが、ことばでも、歌でも、
本当のテクニックであると言えます。

人は、
淡々と、語られたことばに、心から感動して涙したり、
冷たく平坦に歌われた歌に、深い深い愛情を感じたり、
やさしい表現の中に、激しい思いや決意を感じ取ったり。。。

人の心を動かすのは、やっぱり人の心です。

「伝えたい」思いを、相手にきちんと届けるために、
人は、ことばを選び、相手との距離を整え、声や話し方に表情をつけ、
相手の思いを感じ取りながら、スピードに緩急をつけ・・・

そんな日常でしていることを、歌うときに忘れてしまってはいけないわけです。

そして、歌う時こそ、また、日々の人間力が試される。

結局、シンガーは、自分の想いを人に過不足なく伝えるために、
日常レベルで、自分自身の表現力を上げる努力をしていくしかないのです。

8617033_s

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法

Comment

  1. 山下稔二三 より:

    基本だと思います。音程とリズム
    それから
    情熱

    マスター?(笑)(笑)
    人って
    それが自然です
    歌も楽器も

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


  関連記事

リズムが悪いのは「背骨が硬い」から?

音楽学校などでバンド・アンサンブルの指導をしていると、 一所懸命演奏する若者たち …

無限大に見える作業量を前に、ひるんだら負けだ!

洋楽のカバーを歌う、英語の苦手な学生たちに、 英語の発音指導をすることがあります …

歌がうまくなる人は、やっぱ「どM」。

うまく歌えない時は、誰だって、自分の歌を録音して聞き返すのは苦痛です。 失敗した …

「まったくおなじ音」は2度と出せない?~SInger’s Tips #19~

長年歌をやっていて、 もっとも難しいと感じることにひとつに、 「おなじ音をおなじ …

歌に必要なことは、歌の中から学びとる!

人にものを教えるときは、まず真っ先に、 その人が、ゼロ地点にいて、もっと上を目指 …

歌の学校やレッスンに通う 5つのメリット

「そもそも、音楽やるのに、 なんで学校なんか行く必要があるわけ? 自分の問題なん …

歌える歌ばっかり歌っていたら、いつまで経ってもうまくならない。

「今の自分の実力だったら、どんなの歌うべきですかね?」 これは、「自分に向いてい …

ちゃんと元取れっ!

けして質素なタイプというわけではありませんが、ことコスパに関しては誰より厳しいと …

勘違いか?わかってないのか?はたまた、なめてるのか?

ライブでもレコーディングでも、 いや、リハーサル、または実技の授業などであっても …

歌の練習がきっちりできる人の5つの特徴

「練習しなくちゃと思ってたんですけど、なかなか・・・」   状況にもよ …