「そんなピッチで気持ち悪いと思わない自分をなんとかした方がいいよ」
「ああ〜〜、やめてぇ〜〜、気持ち悪いぃ〜〜〜っ」
音楽がなんとなくわかった気になっていた頃、
知っている歌をなんとなく、階名もどきで歌ったときのこと。
絶対音感を持っている友人が、いきなり耳をふさいで、そう叫びました。
思い起こせば、
「どーれーみー」(実際にはミーソーラー)
「ふぁーそふぁみー」(ホントはレーミレドー)
くらい、超適当だったような・・・
今そんなのを私の目の前で誰かが歌ったら、
間違いなく、私の方が悶えながら、
「ど〜して、そんなちゃらんぽらんに歌えるのぉ〜!?」
と叫ぶに違いありません。
その頃私は、もう大学生だったと記憶しています。
「MISUMIちゃんは聴音をちゃんとやらないとダメね」
ピアノの先生にそう指摘されて、
ソルフェージュやコールユーブンゲンも聴音も
ずいぶんがんばっていましたが、
当時は「当たるも八卦」の域を出ていませんでした。
小さい頃からちゃんとピアノ習っていればよかったよね。。。
小学校1年のとき、オルガン教室に通うのが苦痛で、しょっちゅうサボって。
結局ほんの数ヶ月でやめさせられた時は、せいせいしたくせに。
いつだって、あまのじゃくな性格が災いします。
コーラスの仕事をはじめたばかりの時も、こんなことがありました。
楽屋で鼻歌を歌いながらお化粧をするのが好きだった私。
その日も機嫌よく、鼻歌を歌いながら、
ルンルン♪と、メイクに余念がありませんでした。
すると、隣でお化粧していた相方のYちゃんが突然こう言ったのです。
「MISUMIってさぁ、どうして歌いながらどんどん転調するの?
気持ち悪くないの?」
ごく普通のPOPSかROCKを歌っていたはずなので、
転調など、そうそうするわけもありません。
いたって気分よく歌っていた私。
ちょっとカチンときて、
「鼻歌ぐらい、自由に歌わせてくれない?」
と言うと、彼女は苛立ったように言いました。
「だからさぁ、いくら鼻歌だって、
そんなピッチで気持ち悪いと思わない自分をなんとかした方がいいよ」
コーラスの相方として、
仕事のできない私にひとこと言いたかったようでした。
その頃の私のマインドはこうです。
私は耳が悪い
↓
こどもの頃から、ちゃんと鍛えてこなかったから、どうしようもない
↓
だからみんなに音痴呼ばわりされる
↓
音痴呼ばわりされる理由もわからないくらい私は耳が悪い
↓
こどもの頃から鍛えてこなかったから・・・
「キミはライブでは女王だけど、レコーディングは無理だね」
負のスパイラルを抜け出したのは、
どうしても認められたかったプロデューサーチームの作家の人に、
そう言われたことがきっかけでした。
ピッチが気持ち悪いとか、音感が悪いとか、耳が悪いとか、
そういう、音楽エリートにしかわからないことばではなく、
「無理だね」という、
ものすごく具体的で、好戦的で、わかりやすいことばが、
私のロック魂に火をつけてくれました。
無理って、なんだ?
なんで無理なんだ?
欧米じゃ、ろくに楽器も弾いたことのない、
もちろん譜面なんか読めない歌手が素晴らしい歌うたってるじゃないか。
レコーディングして、世界的に有名になっている歌手が1人残らず
絶対音だの、相対音だの、持っているなんて、
そんなわけないじゃないか。。。。
無理なんて絶対に言われたくない。
無理なことなんかひとつもない!
絶対の絶対にできるようになってやる!!!
そう心に誓うと、道はちょっとずつ開けて来ます。
可能の発想です。
毎日、何時間もピアノに向かって、
ピアノを弾きながら階名で歌ったり、
最初の音だけ弾いて、1曲歌ったものを録音して、
それを細かくチェックしたり、
2度、3度、4度、5度と、音程練習を繰り返したり。。。
半年も経った頃からでしょうか。
「へぇ〜、よくこんな転調、音外さないで歌えるね」
「キミ、ピッチばっちりだね」
などと、ちょっとずつ、ちょっとずつ誉めてもらえる場面が増えました。
自信が持てれば、リラックスできます。
リラックスすれば、音もちゃんと聞こえてくるようになり、
ピッチも、なお当たるようになります。
音が当たった時の感覚がカラダにフィードバックして、
気持ちいいと感じられるようになります。
すると、外れたときの気持ち悪さも、
同時に感じられるようになっていきます。
耳が悪くたって、ピッチが悪くたって、
あきらめるのは早すぎる。
あきらめた時点でゲームオーバーです。
誰かにできることは自分にだって、絶対できる。
そう信じて、道を探せば、絶対に抜け出せる。
気がつけば、頭ひとつ、抜けていることさえある。
下を向いて負のスパイラルを落ちていくのか。
上昇気流に乗っかって、突き抜けるのか。
決めるのはいつだって自分です。
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