「道場破り」「ゲリラ戦」「修行」・・・?
アマチュア時代、ちょっとでも自分の顔を売りたくて、
いろんな人のセッションやライブに顔を出しては、
道場破りのように歌い歩いていたことがあります。
一昔前のライブハウスではカバー曲を演奏しているバンドが多く、
スタンダードな曲を何曲か歌えるようにしておくだけで、
後はキーとテンポさえ伝えられれば、
いつでも、どこでも、誰とでも、セッションできたものです。
今思えば、穴があったら入りたいことばかりですが、
当時の私は、これを「ゲリラ戦」と命名して、
自分の心の強さや実力を試す修行と位置づけていました。
渋谷、新宿、六本木、下北沢から、
ニューヨークやトロント、アイルランドのコークまで、
知り合いたい人がいるライブには必ず出かけ、
友達をつくり、
セッションに飛び入りし、
デモテープと連絡先を渡し・・・
若さの特権でしょう。
やがて、おもしろいヤツがいると、
プロ、アマ問わず、さまざまなミュージシャンたちから、
次々と、ライブやお仕事に誘ってもらうようになりました。
毎日、考えていたのは、
どうしたら一流のヴォーカリストと呼ばれるようになるか。
寝ても覚めても、本当にそれだけです。
バイト中も(とっても暇なお店の店番だったこともあり)、
ひたすら練習し、歌詞を覚え、曲を書き、
バイトが終われば、歌やダンスのレッスンや、
リハーサルに吹っ飛んでいく、
家に帰れば練習と作曲と自宅レコーディングの日々。
そして、おこづかいを節約しては、ライブに通っていました。
思えばあまりにめちゃくちゃな時期でした。
ガツガツと人間関係に割り込んでは、
やたら目立ちたがる私を、
快く思っていなかった人もいたと思います。
疲れて自暴自棄になったことも、
もちろん、数え切れないほどあります。
それでも、そんな思いを経験して余りあるあるほど、
たくさんの素晴らしい出会いがありました。
プロへの扉を開いてくれた人がいました。
私のオリジナル曲のデモを制作してくれた人がいました。
次から次へと自分の友人のミュージシャンに私を紹介してくれた人がいました。
やがて、そんなステキな人たちのおかげで、
プロの世界に身を移して、新たな戦いを必死に戦ううち、
いつの間にか「ゲリラ戦」の舞台からすっかり遠のき、
気がつけば、恩ある人たちとも、すっかり疎遠になってしまいました。
あれから何年経つでしょう。
感謝の思いは今も変わりません。
とはいえ、もう、あの頃の私に戻ることも、
あの頃の人間関係を取り戻すこともできない。
今の自分にできることは「ペイフォーワード」。
先輩たちにいただいたご縁や知識を
次の世代に、次のご縁に、つなげていくこと。
やがて、私がまいた種から、
私のことなど、微塵も知らない若者が果物を収穫し、
次の世代へ、そしてまた、その次の世代へと、種を受け継いでいく。
人の恩って、人間関係って、
そうやって成長し、受け継がれていくものなのかもしれません。
遠い日のライブハウスの日々を、なぜか思い出した春の夜。
時間がどんなに流れても、
人がどれほど変わっても、
心の中に大切にしまった思い出と、
そこに住んでいる人たちとの関係は永遠なのだなぁ。
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