大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「道場破り」「ゲリラ戦」「修行」・・・?

   

アマチュア時代、ちょっとでも自分の顔を売りたくて、
いろんな人のセッションやライブに顔を出しては、
道場破りのように歌い歩いていたことがあります。

 

一昔前のライブハウスではカバー曲を演奏しているバンドが多く、
スタンダードな曲を何曲か歌えるようにしておくだけで、
後はキーとテンポさえ伝えられれば、
いつでも、どこでも、誰とでも、セッションできたものです。

今思えば、穴があったら入りたいことばかりですが、

当時の私は、これを「ゲリラ戦」と命名して、
自分の心の強さや実力を試す修行と位置づけていました。

 

渋谷、新宿、六本木、下北沢から、
ニューヨークやトロント、アイルランドのコークまで、

知り合いたい人がいるライブには必ず出かけ、
友達をつくり、
セッションに飛び入りし、
デモテープと連絡先を渡し・・・

 

若さの特権でしょう。

やがて、おもしろいヤツがいると、
プロ、アマ問わず、さまざまなミュージシャンたちから、
次々と、ライブやお仕事に誘ってもらうようになりました。

 

毎日、考えていたのは、
どうしたら一流のヴォーカリストと呼ばれるようになるか。
寝ても覚めても、本当にそれだけです。

 

バイト中も(とっても暇なお店の店番だったこともあり)、
ひたすら練習し、歌詞を覚え、曲を書き、

バイトが終われば、歌やダンスのレッスンや、
リハーサルに吹っ飛んでいく、

家に帰れば練習と作曲と自宅レコーディングの日々。

そして、おこづかいを節約しては、ライブに通っていました。

 

思えばあまりにめちゃくちゃな時期でした。

ガツガツと人間関係に割り込んでは、
やたら目立ちたがる私を、
快く思っていなかった人もいたと思います。
 

疲れて自暴自棄になったことも、
もちろん、数え切れないほどあります。

 

それでも、そんな思いを経験して余りあるあるほど、
たくさんの素晴らしい出会いがありました。

 

プロへの扉を開いてくれた人がいました。

私のオリジナル曲のデモを制作してくれた人がいました。

次から次へと自分の友人のミュージシャンに私を紹介してくれた人がいました。

 

 

やがて、そんなステキな人たちのおかげで、
プロの世界に身を移して、新たな戦いを必死に戦ううち、
 
いつの間にか「ゲリラ戦」の舞台からすっかり遠のき、
気がつけば、恩ある人たちとも、すっかり疎遠になってしまいました。

 

あれから何年経つでしょう。
感謝の思いは今も変わりません。
 
とはいえ、もう、あの頃の私に戻ることも、
あの頃の人間関係を取り戻すこともできない。
 

今の自分にできることは「ペイフォーワード」。

先輩たちにいただいたご縁や知識を
次の世代に、次のご縁に、つなげていくこと。

 

やがて、私がまいた種から、
私のことなど、微塵も知らない若者が果物を収穫し、
次の世代へ、そしてまた、その次の世代へと、種を受け継いでいく。
 
人の恩って、人間関係って、
そうやって成長し、受け継がれていくものなのかもしれません。

 

遠い日のライブハウスの日々を、なぜか思い出した春の夜。

 

時間がどんなに流れても、
人がどれほど変わっても、
心の中に大切にしまった思い出と、
そこに住んでいる人たちとの関係は永遠なのだなぁ。

5907015 - a teenage girl with a sad expression sits against a run-down house.

コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。

 

 - Life, My History

  関連記事

『The ワークショップ Show』という挑戦

ヴォイス&ヴォーカルトレーナーとして、著者としての記事はB面、 ヴォーカリスト、 …

不安を煽る「洗脳営業」に騙されない!

心が弱くなる時というのは誰にでもあります。 不安なとき。 自信が揺らいでいるとき …

『きみ、ホントに、よくプロになれたよねぇ。』③

どんなお仕事であっても、はじめての時は知らないことだらけであたり前です。 &nb …

「らしさ」の延長にしか、成功はない

歌の道でプロを目指そうと心に決めたのは、たぶん、20才くらいの時。 ピアノもダメ …

「自分らしさ」ってなんだ?

らしくあれ。 女子校時代、嫌と言うほど聞かされた言葉です。 本校の生徒らしく、 …

【自己評価を上げるためのチャレンジ】

「あなた、ホントにきれいよね〜」 「キミって、カッコいいね。」   そ …

お前はまだ、立ち続けているか?

『戦いに勝つのは、最後まで立っていたヤツ』 人の戦い方はいろいろです。 100メ …

飽きず、 腐らず、 あきらめず。

自らが選んだ道の上で、 人に選ばれ、 人に望まれ、 人に期待されること。 &nb …

「ケツかっちん」を利用する。

「ライブやりたいなら、とりあえず、小屋から押さえちゃえばいいのよっ!」 &nbs …

「変化」を恐れずに生きる

10代の頃は、10代のうちに死にたいと思っていました。 10代が一番美しい。 穢 …