大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

そのパフォーマンスはレコーディングに耐えうるか?

   

レコーディング・クオリティというと、
通常、録音のクオリティを差すことが多いのですが、

私自身は、プレイヤーやシンガーのパフォーマンスレベルの基準として、
よくこのことばを使います。

 

「そのパフォーマンスはレコーディングに耐えうるか?」

 

これは、私自身がパフォーマンスするときも、
アーティストたちのレッスンをするときも、
いつも念頭に置いていることばでもあります。

 

ライブは打ち上げ花火。

音楽にビジュアルや雰囲気というプラスアルファの要素が加わり、
聞き手も送り手も、高揚した状態で、その場の空気を共有し、楽しむ。
一瞬で終わる。通り過ぎる。それがライブのよさでもあります。

 

一方で、レコーディングされるものは、場所や時間の制限を超え、
多くの人に届けられます。
何度も何度も聞き返されるものでもあります。

何度も聞くうちに、いろいろなことに気づかされるのが、
レコーディングされた音楽。

じっくりと研究する人も、完コピする人もいるでしょう。

当然、ある程度以上のクオリティが要求されるわけです。

 

ここで言うレコーディングクオリティとは、
限られた時間で、譜面通り正しく演奏できる人なら誰でもいい、という、
いわゆる「スタジオミュージシャン」レベルの話ではありません。

アーティストとしてのアイデンティティをフルに発揮しながらも、
レコーディングに耐えうるクオリティでパフォーマンスをする、
という、少々ハイレベルなお話です。

 

しかし、インターネットが普及したこの時代、
最早、ライブは打ち上げ花火ではなくなりました。

プロアマ問わず、特別な制限をしなければ、
ライブの映像や音源は勝手にバンバンとネットに乗って、
全世界の人が好きなときに好きなだけリピート試聴できてしまいます。

 

この恐ろしさに気づいているのは一握りではないか?
 

プロフェッショナルなレコーディング現場は、非常にクオリティにシビアです。

ピッチやリズムのヨレはもちろん、表現やアイデンティティまで。

レコーディングされた音源がアーティストのブランドとなり、
プロジェクトの成功を、
場合によっては社運までをも、左右するのですから当然です。

 

あくまでも私の主観ですが、
多くの自主制作盤は、こうしたクオリティ面が、正直、非常に甘い。

誰がこれでOK出したのだろう?と思ってしまう作品が、
山のようにあります。

こんなもんかと思うのか、
それとも、シビアに判断できる人がいないのか、
はたまた、デモのつもりでつくったものを売ってしまっているのか・・・

 

クオリティの甘い作品をつくれば、ライブのクオリティに関しても甘くなる。

こんなんでいいか・・・の負のスパイラルです。

 

私は、メジャー作品と、そうでないものの大きな違いは、
レコーディング状況よりも、
こうした、クオリティ面の「甘さ」と考えています。

 

妥協ないレコーディングを繰り返すことで、
自分自身のクオリティが上がる。
ライブのクオリティも上がる。

 

ライブをそのままライブ盤として発売できるくらいの腕になって、
はじめて、本物のレコーディングクオリティのあるミュージシャンといえる。

(「ライブをCDにして売っちゃいました」
がいいと言っているのではありませんよ。もちろん。)

 

レコーディングクオリティのミュージシャンは自分の演奏にシビアです。

そんなミュージシャンは、
同じようなクオリティのミュージシャンと演奏したいもの。

そして、シビアなミュージシャンたちと演奏することで、
さらに自分自身も磨かれていく・・・

うかうかしていると格差はどんどん広がってしまうのです。

43589305 - multiracial music band performing in a recording studio

 

 - The プロフェッショナル

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