そのパフォーマンスはレコーディングに耐えうるか?
レコーディング・クオリティというと、
通常、録音のクオリティを差すことが多いのですが、
私自身は、プレイヤーやシンガーのパフォーマンスレベルの基準として、
よくこのことばを使います。
「そのパフォーマンスはレコーディングに耐えうるか?」
これは、私自身がパフォーマンスするときも、
アーティストたちのレッスンをするときも、
いつも念頭に置いていることばでもあります。
ライブは打ち上げ花火。
音楽にビジュアルや雰囲気というプラスアルファの要素が加わり、
聞き手も送り手も、高揚した状態で、その場の空気を共有し、楽しむ。
一瞬で終わる。通り過ぎる。それがライブのよさでもあります。
一方で、レコーディングされるものは、場所や時間の制限を超え、
多くの人に届けられます。
何度も何度も聞き返されるものでもあります。
何度も聞くうちに、いろいろなことに気づかされるのが、
レコーディングされた音楽。
じっくりと研究する人も、完コピする人もいるでしょう。
当然、ある程度以上のクオリティが要求されるわけです。
ここで言うレコーディングクオリティとは、
限られた時間で、譜面通り正しく演奏できる人なら誰でもいい、という、
いわゆる「スタジオミュージシャン」レベルの話ではありません。
アーティストとしてのアイデンティティをフルに発揮しながらも、
レコーディングに耐えうるクオリティでパフォーマンスをする、
という、少々ハイレベルなお話です。
しかし、インターネットが普及したこの時代、
最早、ライブは打ち上げ花火ではなくなりました。
プロアマ問わず、特別な制限をしなければ、
ライブの映像や音源は勝手にバンバンとネットに乗って、
全世界の人が好きなときに好きなだけリピート試聴できてしまいます。
この恐ろしさに気づいているのは一握りではないか?
プロフェッショナルなレコーディング現場は、非常にクオリティにシビアです。
ピッチやリズムのヨレはもちろん、表現やアイデンティティまで。
レコーディングされた音源がアーティストのブランドとなり、
プロジェクトの成功を、
場合によっては社運までをも、左右するのですから当然です。
あくまでも私の主観ですが、
多くの自主制作盤は、こうしたクオリティ面が、正直、非常に甘い。
誰がこれでOK出したのだろう?と思ってしまう作品が、
山のようにあります。
こんなもんかと思うのか、
それとも、シビアに判断できる人がいないのか、
はたまた、デモのつもりでつくったものを売ってしまっているのか・・・
クオリティの甘い作品をつくれば、ライブのクオリティに関しても甘くなる。
こんなんでいいか・・・の負のスパイラルです。
私は、メジャー作品と、そうでないものの大きな違いは、
レコーディング状況よりも、
こうした、クオリティ面の「甘さ」と考えています。
妥協ないレコーディングを繰り返すことで、
自分自身のクオリティが上がる。
ライブのクオリティも上がる。
ライブをそのままライブ盤として発売できるくらいの腕になって、
はじめて、本物のレコーディングクオリティのあるミュージシャンといえる。
(「ライブをCDにして売っちゃいました」
がいいと言っているのではありませんよ。もちろん。)
レコーディングクオリティのミュージシャンは自分の演奏にシビアです。
そんなミュージシャンは、
同じようなクオリティのミュージシャンと演奏したいもの。
そして、シビアなミュージシャンたちと演奏することで、
さらに自分自身も磨かれていく・・・
うかうかしていると格差はどんどん広がってしまうのです。
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