大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

音楽家なら、カラダの不調を「職業病」で片付けない 

   

演奏や歌唱はカラダをつかうお仕事ですから、
ミュージシャンはいわば肉体労働者。

多くの人が「職業病」ともいえる、
カラダの不調を抱えています。
楽器の歴史自体が相当長いためか、
それとも楽器というものの性質上仕方ないのか、
多くの楽器が、残念ながら、
人間工学に基づいてつくられているとは言いがたいと感じます。
たとえば、ギターなどの弦楽器は、
カラダの左右を完全に非対称に使います。

毎日何時間も演奏する弦楽器プレイヤーたちの多くは、
背骨が湾曲したり、
背中の片側だけに異様に筋肉がついて、盛り上がっていたりするもの。

また、ポピュラー系の弦楽器のプレイヤーなどは、
肩にストラップをかけて、立って演奏するのが常なので、
左右の肩の高さが違ったり、
猫背になって、クビが前に出たりしている人も多く見受けられます。
人間の肩は、ハンガーとは違います。
脱力した状態で、重いものをぶら下げるようにはできていません。

鎖骨は胸郭に、肩甲骨は背骨に、ぶら下がっているだけですから、
脱力して、重いものをぶら下げれば、
靱帯や関節に負担がかかるのは当然なのです。
指先や手のひらの筋肉の動きにも、
腕全体、首、背骨の動きが関与しています。

肘を曲げ、手のひらを上に向けて、手首を折った姿勢で、
がちっと固定したまま演奏し続ければ、
カラダの偏った筋肉だけを酷使する結果になります。

 

弦楽器プレイヤーばかりではありません。

座ったまま演奏するドラマーやキーボーディストの多くが、
腰痛や腱鞘炎、肩の痛み、首の痛みに悩んでいます。

またしても、「そもそも」ですが、
人間のカラダは座骨を支点にしてカラダを動かすようにはできていません。

足の裏には筋肉も、鋭い感覚もありますから、
立っているときは、常に体重の微調整をしているものですが、

座骨周辺の筋肉は足の裏のような働きはできません。
鍛えようがないのです。

ドラム演奏などで、左右の足でペダルを踏み続けながら、
腕を使っていれば、当然カラダに負担がかかってきます。

背骨も自由に動けませんから、固定され、
代謝や血行が落ちるでしょう。
ピアノのペダルも同じです。
多くの場合が右足でペダルを踏みますから、
片側の臀部に恒常的な緊張が起きます。

さらに、背骨を固定し、何時間も同じ姿勢で腕だけを使っていたのでは、
不調が起きるのは当然です。

 

さて、ヴォーカリストにも、同じように、職業病的な症状はあります。

肋間筋を開いたまま固定して呼吸の支えをつくるかたちは、
動物の呼吸としては、なかなかに不自然。

またヴォーカリストの場合は、
いい声を保つために姿勢を保ちますから、
起立筋まわりの緊張にともなって、背中の痛みなどが起きやすくなります。

女性ならハイヒールなどを履いて人前に立つことも多いため、
カラダを締める筋肉を緊張させやすく、
自律神経に影響が出ることもあります。

 

 

さて、今日の主題は、音楽家の職業病を嘆くことではありません。

音楽家は、「カラダを酷使する肉体労働者」ではなく、
「カラダの可能性を引き出すアスリート」だと、
認識を変えるべきだ、いうことです。

 

スポーツだって、
ひとつひとつの動きをとってみれば、
けして、カラダにやさしい動作ばかりとは限りません。

しかし、アスリートたちは、
その、ひとつひとつの細かい動作に、
全身を関与させることで、いい結果が得られることを知っています。

背中の不調が、指先の微妙な感覚に影響することや、
腰の状態が、足の動きに影響することを、
コンマ単位の記録と向き合うことで、日々思い知っているのです。

 

だからアスリートたちは、競技の練習の他に、
基礎トレーニングやメインテナンスを欠かさず、
日々の生活でも、カラダに負担をかけないよう、
細部に気をつかっているのです。

 

ミュージシャンはアスリート。

職業病とあきらめて放置すれば、カラダをいたずらに消耗し、
ミュージシャン生命を短くすることになりかねません。

そろそろ、真剣にフォームの修正や、
リハの合間のボディトレーニング、
全身のコンディショニングなどを考えるべきときではないでしょうか?

22203572 - grand piano pianist playing concert

 - カラダとノドのお話, 音楽人キャリア・サバイバル

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