大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ギターの「早弾き」 vs. ボーカルの「高い音」

   

ボイトレというと、高い音ばかり練習している人がいます。

実際に、スクールなどでも「高い声が出る」をうたい文句にしているところもあるくらいですから、「高い声」に執着している人が、世間的にどのくらい多いかがうかがわれます。

 

理由は単純です。

「高い声が出る」というのは、目安として、わかりやすいからです。

難曲とされている曲は必ずと言っていいほど、
一般の人には出せないような高い音が出てきますし、

実力派と言われる歌手は、
音域が3オクターブあるとか、4オクターブあるとかを
売りにしていたりするものです。
確かに高い音を出すのにはそれなりのテクニックがいりますから、
そこが評価される理由もわかります。

練習していた高い声が、いきなり出ると、
ものすごい達成感がありますし、

ハイトーンで有名な歌手の曲を、
原キーで歌えるというのは、ある意味ステイタスにもなったりします。

 

ただね。

それだけでいいですか?

 

同じことが、ギターの早弾きにも言えそうです。

早弾きは「わかりやすい」のです。
まず、早く弾けると「うまそうに聞こえる」。

確かにテクニックがないと、早弾きはできませんから、
練習の指標としやすいし、できたときの達成感もある。

人に「おぉお」という印象を与えることもできる。

 

だから、早弾きの練習にはまると、もうそればっかり練習しちゃう人、
たくさんいるんです。

 

まぁ、ギターに限らず、
ドラムソロしかり。ベースソロしかり。

 

 

しかし、です。

 

ギターの早弾き、ヴォーカルのハイトーンは、いわば飛び道具。

曲の盛り上がった場所に、一瞬顔をのぞかせる、
一口だけ出てくる美味しいおかずのようなものです。

肝心の平歌部分、つまり曲のほとんどをしめる、
ソロじゃない部分、高い音じゃない部分をないがしろにしていては、
曲全体のクオリティは絶対にあがりません。

 

一瞬のギターソロを練習するよりも、
曲全体をしめるカッティングのグルーヴや、
リフの精度をよくすることが先決です。

 

一瞬の高い声を「地声で出す!」とこだわって、
前後のピッチがおろそかになったり、
無理なキー設定でキーキーしたりするのでは、本末転倒なのです。

 

ちなみに、高い声はコツがわかれば一瞬で出ます。

発声が整い、全体のクオリティを上げる練習に励むうち、
あれ?というくらいいきなり出たりするものです。
「高い声」や「早弾き」は音楽の表現の一部。

もちろん、「高い声」や「早弾き」がない演奏は、
どこか物足りないと思う人もいるでしょう。

プレイヤーやヴォーカリストとしても、
今ひとつ目立てないかもしれません。

何事もバランス。
広い視野をもって音楽的な実力を身につけたいですね。

47406915 - guitarist.

 

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

  関連記事

「歌われているように書く」で英語の歌は劇的にうまくなる

ちょっと怪しいタイトルですが、 今日はタイトルだけ読んでいただければいいくらい、 …

「曲の可能性」をありったけ取り出す

大好きで、よく引用することばに、 世紀の名ピアニスト・ホロヴィッツの 「楽譜は紙 …

ネックの曲がったギター vs. 姿勢の悪いヴォーカリスト

姿勢やフォームが悪いヴォーカリストは、 ネックの曲がったギターに例えるのがもっと …

「長期記憶のゴールデンタイム」にあなたは何を記憶しますか?

「受験生といえば、まずは『でる単』」。 『でる単』、すなわち、『試験に出る英単語 …

リズムが悪いんじゃない。カツゼツが悪いんだ。

昨夜、ヒップホップグループN.W.Aの伝記的映画、 “Straigh …

ヴォーカリストのための「練習の3つのコツ」

プライベートレッスンでも、MTL12でも、そして音大でも、 クライアントやアーテ …

それで、いい声、出せますか?

先日、とある生徒さんのレッスンをしていた時のこと。 ずいぶん小柄な彼女なのに、 …

no image
歌の構成要素を分解する〜ラララで歌う〜

大好きな曲を、オリジナルを歌っている歌手と一緒に歌う。 何度も、何度も、繰り返し …

キーは、歌えりゃいいってもんじゃないんですよ。

カバー曲を歌うとき、 無条件にオリジナルのキーで歌っている人は多いはず。 私自身 …

音楽家なら必ず鍛えたい「耳」のお話

耳を鍛えることは、 曲を理解する上でも、楽器や歌の技術や表現力を磨くためにも、 …