「答え」が違うのじゃない。そもそも「質問」が違うのだ。
ずいぶん昔のお話です。
雑誌の付録に「美人顔の条件」というようなのがありました。
美人モデルの顔にさまざまな角度の線と数字が書き込まれていて、
顔の横の最長部分の長さと縦の最長部分の長さの比が、
何対何じゃなくちゃダメで、
目と目の間が、顔の横の長さの何分の一じゃなくちゃダメで、
唇の厚みが唇の横の長さの何パーセントじゃなくちゃダメで。。。
どの数字を見ても、ただただ、気が滅入るばかりで、
一体全体、こんな悪趣味なもの、
誰を喜ばせるためにつくられたんだろうと、
実に恨めしく思ったものです。
たかが雑誌の付録。
それなのに、こんなに長い年月を経ても、その写真のイメージと、
それを眺めていたときの自分の絶望的に嫌な気分が、ありありと蘇ってくる。
読者に何かしら、影響を与えようというのが出版社の意図だったなら、
確かに、成功しています。
もちろん、読者を嫌な気分にさせることが出版社の意図であったはずはありません。
写真を眺めて、「自分も美人の部類よね」と、いい気分になった人もいれば、
どうでもいい数字の羅列と、笑い飛ばした人もいるはずです。
「わかってねぇな」と、なじった人もいるかもしれません。
情報の意味は受け手が決める。
その雑誌の付録にネガティブな意味を与えたのは、
私自身の自己評価の低さだったわけです。
昨今、人々のもめ事を傍観する機会が何度かありました。
誰々に悪口を言われた。
誰々に馬鹿にされた。
誰々はこちらの言うことを全然聞かない。
誰々は何ひとつわかっちゃいない。
誰々は酷いヤツだ。
客観的に見てみれば、それらはすべて、
単なることばだったり、事実だったり、出来事だったり。
理想の美人顔の黄金比と変わりません。
何の意味もない。事実の羅列です。
ところが、人と人とが関わると、
どんな出来事にも、どんなことばにも、
それぞれが、それぞれの意味づけをする。
誰もが自分のフィルターを通してしか、
物事の意味を理解できない。感じられない。
物事の意味や価値は、人の数だけあるのです。
人間関係において、一番大切なのは、
相手の立場に立って物事を考えること。
イマジネーションです。
その人が置かれている状況や、
その人のバックボーン、
その人の価値観を想像することで、
その人にとっての「意味」が見えてくる。
そもそも、「質問」が違うのだから、
「答え」が正しいとか、間違っているとかいう議論は成立しないのです。
相手を変えようとするのではなく、
ただ、違うのだということを理解する。
自分の意味を押しつけるのではなく、
相手はそれを理解できないのだということを、理解する。
本当のコミュニケーションは、そこからはじまるはずです。
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