もらったもの
小学校の高学年になったばかりのこと。
教室で男の子たちが真剣な面持ちで将棋を指しているので、
思わず近くに寄って、
「次、私にも指させて!」と言ったところ、
「オレたち、回り将棋はやらないよ。本将棋やってんだよ。」
と言われました。
物心つくか、つかないかから、
父に将棋の手ほどきを受けていた私は、
その時初めて、将棋の遊び方には「本将棋」以外の将棋があると知ったのです。
父は、こどもをこども扱いをせず、
いつも対等に、人間同士として向き合うような人でした。
幼稚園時代から、読み聞かされたのは、
萩原朔太郎に草野心平に小川未明・・・変でしょ?
小学校の宿題で、好きな詩を書き写して提出しなさいと言われて、
出したのが幼稚園時代から大好きだった朔太郎の『遺伝』という詩。
 
「人家は地面にへたばって 大きな蜘蛛のように眠っている・・・」
 
クラスの友達どころか、
先生にまで、「ずいぶん難しい詩を選んだね」と言われたものです。
音楽と言えばエリントンにミンガスにブルーベック。
歌と言えば、ビリーに、エラに、サラ。
子守歌は”Summer Time”。
(お世辞にも上手とは言えませんでしたが・・・(^^)
 
映画監督を夢見た時代があったそうで、
毎晩のようにテレビの洋画劇場を見ながら、
構図やら、脚本やら、伏線やらと、やたら講釈がうるさかったり。
 
ハインラインもバロウズもウェルズも、
チャンドラーもダールも、ぜ〜んぶ父の本棚から読みました。
こんなことを書くと、なんだかものすごく高尚そうな、
知的な雰囲気の「おじさま」を思い浮かべられちゃうと思うのですが、
 
家業の土建屋の跡継ぎだった父は、いつも土方焼けで、
スキンヘッドで(本人はスポーツ刈りと言い張っていましたが(^^)、
大好きなワインを1杯飲んだだけで、頭の先までゆでだこ状態。
 
私の友人たちと語り合うのが大好きで、
エッチな話も大好きで、タバコも競馬も好きで。
 
実に人間くさい、
オタクで、ちょっと頑固なところのある、
・・・まぁ、とてもいい父でした。
先日、『音ジャンク vs.音グルメ』という記事を書きながら、
人の価値観は、生まれた環境や時代によって、
なんて違うんだろうと考えていました。
生まれる環境を選ぶことはできません。
 
恵まれた環境に生まれる人もいれば、そうでない人もいる。
 
しかし、なにを「恵まれている」ととらえるかは、
自分で決められるはずです。
こどもの頃の私は、不満ばかりでした。
 
とにかくエネルギーを持てあましていたし、
理解されない苦しさに、いつもイラだっていました。
 
音楽に出会って、エネルギーを集中するすべを知ってからも、
ステキな彼氏や友達に恵まれていたときも、
 
心が満たされず、
いつも、なんで私はこうなんだと、
毎日のように自己嫌悪に苛まれていました。
あの頃の私に、自分がどれだけ恵まれていたか、教えてあげたい。
 
ちょっと見る角度を変えるだけで、
人生は信じられないくらい、違った色になる。
 
もっともっと早く、思い至っていれば、
どれほど違う人生を歩んでいたことか・・・
それでも私は、
 
あの逆境の中でミュージシャン&作詞家になって、
海外で武者修行して、
あこがれのミュージシャンたちと次々共演して、
大きなステージ、小さなステージ、山ほど立ち、
本を出して、会社を起こして、
メソッド作って、講演して・・・
 
そんな人生を歩んだのかな?
 
こうして、毎晩のように、ブログを書いていたのかな?
なんだか思いの止まらない夜です。
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