「わ。ピッチ悪い」をどうするか。
初めて「ピッチが悪い」と言われたのは、
歌の学校に通いはじめて、しばらくしてからのことでした。
その学校には小さなステージがあり、
レッスンは、交代にそこで歌い、
その都度先生にアドバイスをもらうというスタイルのレッスンでした。
私が歌っている最中、目の前に座っていた生徒のひとりが、
「わ。ピッチ悪い」と、ひとりごとのように、
いきなり言うのが聞こえました。
もっとショックだったのは、当時のインストラクターの先生が、
その子と目配せをして、ニヤリとするのが見えたことです。
もう何十年も前のことなのに、
鮮明にその時の情景が思い出されるのは、
我ながら執念深いというか、被害妄想が強いというか・・・
困ったものですが、
まぁ、それだけ、傷ついたということなのだから、
仕方ありません。
ここで大きな疑問が浮かびます。
その先生が私に、直接、
「ピッチが悪い」と言わなかった理由はなんだろう?
1.実はピッチが悪いことに気づいていなかった
私の歌が、なんとなくイケてないのはわかってたけど、
その子が指摘するまで、ピッチが悪いからイケてないんだということに、
気づいていなかった。
2.そんなことは自分で気づくべきだと思っていた。
昔気質のミュージシャンにはよくあることですが、
ご本人が天才すぎて、
歌の勉強をしているくせに、
自分でピッチが悪いことに気づけない人がいることが信じられない。
習うより慣れろで、
自分の歌がイマイチだということは、
自分で気づいて、改善できてなんぼ、だと考えていた。
3.気づいていたけれど、どうせ言っても仕方がないと思っていた。
ピッチが悪いものは悪い。
つまり、東洋人に生まれるとか、青い目に生まれるとかと同じで、
ピッチが悪いというのは生まれつきの性質で、
だから指摘したら可哀想だと思っていた。
今さら分析するのもなんですが、まぁ、そんなところでしょう。
情報のない時代。
歌手からなんとなく先生になった方たちの多くが、
こんな感じだったというのは、仕方のないことかもしれません。
とはいえ、当時の私は、
本当に傷ついたり、困ったりしました。
なにより「ピッチが悪い」ということばの意味がわからない。
インターネットがあるわけではない。
辞書を引いても答えは出てこない。
悔しすぎて、先生にも友だちに聞けない・・・。
そもそも、ピッチがなにかもわからない上に、
歌っていても、録音した自分の歌を聴いても、
ピッチが狂っているというのがわからないんだから、
どうしようもありません。
「耳が悪い」で片付けるのは簡単ですが、
それは今さら聴音の勉強でもして耳を鍛えればどうにかなるのか、
練習していれば、いつかよくなるのか、
それともあっさりあきらめるのか、
真剣にプロを目差していた私にとっては、
もう死ぬか生きるかぐらいの大問題でした。
さて。
そんな疑問に明確な答えを与えてくれたのは、
歌の最大の恩師である、ヴォイストレーナーの安田直弘先生でした。
悩む私に、
「わからなかったら、チューニングメーターで見てみればいいんだよ。」
カジュアルにそう言って、チューナーを渡してくれた先生。
「機械で声を計るなんて・・・」と、
昭和な私にとって、最初は半信半疑でしたが、
ピアノで音を出して、チューナーに向かって歌ってみると、
確かに、「ドー」と歌っているはずなのに、全然ドに届いていません。
最初は、どうやったら、チューニングがあうのかもわからない状態でしたが、
やがて、少しずつ、針がぴたりとど真ん中に来るようになりました。
・・・
大事なことは、あきらめないこと。
すべてが可能である、と考えること。
可能であるという前提に立つから、
どうやったらいいんだろう、と工夫が生まれる。
感覚や感性という、
目に見えない基準ではわからないなら、
「わからない」を見える化する方法を考える。
まだまだ、やれることはありそうです。
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