「完璧なパフォーマンス」ができても、「蚊の鳴くような声」じゃ、やっぱりダメなのよね。
ずいぶん前のことになります。
あの子、歌がめっちゃ上手いんですよ〜。
素晴らしい声なんですよ〜。
先生にも是非一度、聞いていただきたいと思いまして〜・・・
歌のお仲間のそんな熱い評判に応えて、
歌手志望という若いお嬢さんにお目にかかったことがあります。
まだ10代だったそのお嬢さん、
ご家庭の事情から海外生活も長かったとかで、英語も堪能。
洋楽、R&Bの難曲を、
それはそれは完璧な英語と
ヴォーカルテクニック、そして、表現力を駆使して、
魅力的に歌ってくれました。
滑らかで素敵な歌声。
境目のない広い音域。
あぁ、うまいなぁと、
思わずお仲間がため息をつくのも無理はありません。
ただひとつ・・・
問題だったのは・・
そのお嬢さん、
とんでもなく、
びっくりするくらい、
声が小さかったのです。
どのくらい小さいかというと、
もうそれは、「蚊の鳴くような」と言っても過言ないレベル。
近くで誰かがおしゃべりしていたら、
その素敵な歌声はかき消されてしまうに違いありません。
完璧なパフォーマンスと、
あまりの声の小ささのコンビネーションに驚いて、
本人に問いただすと、
「あ・・・でも、大きい声を出すと、ノドを痛めますから」
なんでも、
こどもの頃お世話になった先生が、
「地声で大きな声を出すと、ノドによくないから」と言ったとか。
「ノドは一度壊すと元に戻らない」と脅かされたとか。。。
うーーーーん。
その先生のおことば。
一部分は正しいですが、
真実のすべてを網羅しているとは言えません。
正しくは、
「地声で無理に大きな声を出すと、ノドによくない。」であり、
「ノドは一度壊すと元に戻らない場合もある」です。
おそらくはクラシック系の先生であったろう、
そのお嬢さんの先生は、
地声で乱暴に大声で歌われるのが、
おそらくとてもお嫌いだったのでしょう。
発声は筋肉運動、というお話は、
これまでも何度となく書いてきました。
筋肉は育てるもの。
ギブスの中の足の筋肉がどんどん退化するように、
過剰なプロテクションは、声を守るどころか退化させてしまいます。
カラダが楽器である以上、
自分のカラダのサイズの声を出せるのは当然のこと。
イヌなどの動物を思い出してもらえばわかるはずです。
立派な発声器官を持っている動物は、
自分のカラダのサイズに見合った、
ポテンシャルを最大限に生かした、立派な声で鳴くものです。
まずはカラダのあるべき音を取り出す。
楽器として基本なのです。
声が大きくなければいけないということは、もちろんありません。
マイクロフォンというものがありますから、
多少、声が小さくても、
もちろん、声は届きます。
アコースティックサウンドなどで、
必ずマイクを使って歌う人たちや、
レコーディング以外では歌わない、という人は、
蚊の鳴くような声でもいいでしょう。
しかし、通常の、バンドの入るようなサウンドで、
その声量でのライブは絶対に無理です。
エンジニアさんがよくおっしゃるように、
「鳴らない音は拾えない」のです。
出てない声を持ち上げようとすれば、
他の楽器の音までも拾ってしまい、
結局、全体のバランスは大変なことになります。
「必要最低限の音量」は出せなくてはダメなのです。
さらに言えば、
大型車より小さい車の方が運転はたやすいように、
声量が少ない方が、
声のコントロールは圧倒的にしやすいもの。
楽器を小さく、小さくまとめて、
器用に歌っているだけでは、本当の歌とはいえません。
まずは楽器を鳴らす。
テクニックをつけるのはそれからです。
小さな楽器で小器用に歌うクセをつけてしまった人は、
まずは勇気を持って、これまでの自分のスタイルと決別し、
もう一度自分の楽器を鳴らすところからはじめてみましょう。
可能性が驚くほど広がることに気づくはずですよ。
明日2月21日(火)発行のメルマガNo.137では、声量を上げるためのシンプルな練習方法についてお話する予定です。バックナンバーも読めますので、興味のある方はぜひこちらからご登録くださいね。
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