大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ちゃんと鳴らす!

   

ヴォーカルのテクニックのひとつに、
「息混じりに歌う」というのがあります。
基本的な効果は「息混じりに話す」のと同じ。

セクシーさを演出したり、
気だるい感じを出したり、
癒やしの雰囲気を出したり・・・

作品として世に出ているものの中には、
実際には、それほど息混じりに歌っていなくても、
息の音を強調するような処理をすることで、
そうした効果を強調しているものも多々あります。

 

さて。

 

昨今人気の、こうした「息混じり」歌手たちへのあこがれか、
機械処理で息の音を思いきり強調した声と、
同じような効果を無意識に狙ってしまうのか、

「息漏れ声」で歌う若者が増えています。
一聴すると、癒やし系。セクシー系。

しかし、この「息漏れ声」、
「息混じりの声」とは、似ているようで全く違います。

 

 

通常、呼吸をするときには開いている声門は、
声を出そうとすると閉じ、
息のエネルギーを声のエネルギーに変えます。

 

1音1音がいい音色で、しっかりと響き、
どの音も均等に「鳴る」ことが楽器の理想と考えるなら、

息のエネルギーが声のエネルギーに変換される率が高いほど、
カラダという楽器は理想的に鳴るわけです。

この「鳴っている状態」を基準に、
ダイナミクスや音色に変化をつけることで、
声という楽器の音楽的表現の可能性が引き出されます。

声門を閉じる強さを自在に調節できれば、

息100%か、声100%か、というような、
「白か黒か」的、杓子定規な表現だけでなく、

白から黒までの限りないグレーのグラデーションを、
息と声の量のバランスを変えることで表現できるのです。

 

一方で、「息漏れ声」は、「鳴っていない状態」。

楽器としての声のポテンシャルを引き出せていません。

 

だから、息漏れ声は、
音量があがらない。
抜けない。
通らない。
すぐ枯れる。
不安定である。

・・・などなど、残念なことばかり。

 

声と一緒に聞こえてくる、「しゃ〜」という息の漏れる音。

人に寄っては、この、「しゃ〜」と、声が同じくらいの音量で聞こえる人もいます。

 

それでは、鍵盤を叩く「かたかた」という音や、
ギターの弦をこする「きゅきゅきゅ」という音が、
実際の楽音と同じくらいの音量で聞こえてくるのと同じです。

自分という楽器のポテンシャルを引き出せていない。

とても、もったいないのです。

 

さて、あなたは、

「息混じり」で歌えていますか?
「息漏れ」になっていませんか?

36301138 - elegant young female singer in black dress smiling holding golden vintage microphone, live performance, concert, unrecognizable person, close up, focus on mic, copy space

コアでマニアックなネタをお届けする、ヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。

 

 - 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 声のはなし

  関連記事

カラダを楽器に「最適化」する。

「タマゴが手の中にあるように、 そーっと鍵盤の上に指を乗せるのよ。」 中学になっ …

頑固な、間違ったプログラムを解除して、「声」を解放する

カラダの構造や、発声のメカニズムを教えて、左脳からアプローチしても、 カラダに触 …

歌の練習がきっちりできる人の5つの特徴

「練習しなくちゃと思ってたんですけど、なかなか・・・」   状況にもよ …

酒とタバコと断崖絶壁

学生時代からバンドをやって、 学祭やライブなどで歌ったり、演奏したりしていた、 …

誤解だらけの「ロック声」。そのシャウトでは、危険です。

ハスキーで、ひずんだ感じの、 いわゆる「ロック声」には、いろいろな誤解があります …

「お腹は凹ますのか?突き出すのか?」問題について語ってみた

「歌うときは、おへその下10~15㎝下を少~しずつ凹ませましょう。 このとき、肋 …

カムバックを狙え!

足を骨折したことがあるでしょうか? ギブスにすっぽりと守られて、 まったく動かせ …

音は「楽器」じゃなくって、「人」が出すものなのです。

かつて、ドラムの神様と言われたスティーヴ・ガッドが来日した際のお話です。 &nb …

音楽家なら必ず鍛えたい「耳」のお話

耳を鍛えることは、 曲を理解する上でも、楽器や歌の技術や表現力を磨くためにも、 …

ルーティンワークで「微差」をつかまえる。

鰻屋を営んでいた母方の祖父は、 生前、お昼ごはんに、 毎日お店の鰻重を食べていた …