「あれが人生のピークだったって思いたくないんだ」
とある著名なヴォーカリストと共演させてもらった時のこと。
圧巻のパフォーマンスとステージプレゼンス。
隣に立って、そのオーラを全身で浴びた私は、
興奮冷めやらぬまま、打ち上げの席で、その感動を直接伝えました。
「世界で活躍する人って、やっぱり本当にすごいんだと、感じ入りました。
あの世界的に有名な会場でコンサートもやったんですよね!
あんなステージに立てるなんて、一体どんな気持ちでしょう・・・」
興奮と感動と羨望とが入り交じったような気持ちで、
そんなことを伝える私に、彼は静かに言いました。
「もう、そのことは忘れることにしてるんだ。
あれが自分の人生のピークだったって、思いたくないんだよね。」
本物の一流のことばは、重く響きました。
「あたしゃ紅白出たんだよ!」
「俺様を誰だと思っているんだ!?」
過去の栄光や有名幻想にしがみついて、
マウンティングを仕掛けてくる人たちが山ほどいる音楽業界にあって、
本当の一流は、
やっぱりどこまでも謙虚で、
いつだって前を向いている。
すっごいなと、心から思いました。
忘れたくなるほどのピークは、自分にも、これからやってくるのだろうか?
もしかして、すでに自分のしょぼいピークは、過ぎてしまっているのではないか?
もしもそんな、一世一代のピークが自分にもやって来たら、
そんな華やかな時を、さっさと忘れて次へ進もうだなどと、
潔く思えるのだろうか?
あれから20年あまりの時が経ちました。
この時の会話を、今もことあるごとに思い出しては、
同じ質問を自分自身に投げ掛けます。
あの頃と違うのは、
もしかして、あれがピーク?
ひょっとして、こっちだったのかな?などと、
せいぜい高台ぐらいだった、
自らのキャリアにおける、よき時代を思っては、
がっかりしたり、憂鬱になったりすること。
さらには、わかりやすいピークなんかない方が、
ずっと上っていこうってガッツが途絶えないのじゃないか?
過去の自分と今の自分を引き比べて、
ため息をついたりしなくて済むんじゃないか?
などと、ポジティブなのか、負け惜しみなのかわからない思いさえ湧いてきて、
ふっとおかしくなること。
そういえば、やがて彼以上に世界で認められることになるミュージシャンが、
こんなことを言っていました。
「どんなときも上へ、上へ、って思ってなきゃダメなんだ。
ここまでって思ったら、それで終わりだよ。」
一流は上しか見ない。
一流は振り返られない。
いや、きっと、そうじゃない。
上しか見ないから、一流になれる。
振り返らない人が、一流と呼ばれる。
追いかけても追いかけても、
追いつけない夢だけど、
「いつかきっと」を信じ続ける。
「もっと、もっと」と、追いかけ続ける。
勝負はまだまだこれからですよ。
わたしも。あなたも。

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