大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

ロックは、そこ、外しちゃダメなんです!

   

ジャズ系の人が、スタンダードやカバー曲を演奏しているのを聞いていると、
元のコード進行とかが全然なくなっちゃってて、
メロディが出てくるまで、一体何の曲なのかわからない、
なんてことがよくあります。

そういうサプライズもジャズのスリルのうち。
メロが出てきて、「おぉおお、そう来るのか」と、
聞く人をびっくりさせる仕掛けです。

ジャズの人って、リハーサルと同じことをやるのは味気ないとか、
誰かのマネをするのはダサイとかいう向きがあるらしい。
(門外漢なので、あくまでも又聞きです)

一方でブルース系の音楽は、基本、コード進行が全部おんなじ。
時々「サビだけコード進行が違う曲」とか
「大サビ的な進行がある曲」などがありますが、
大体は「例のあれ」。

その「例のあれ」の気持ちよさの中で、
いかにアイデンティティを出すか、
情熱や感動を伝えるかが、腕の見せ所というわけです。

 

しかし、ロックって、ちょっとそういうのとは違う。
絶対出てこなくちゃいけないリフとか、
「そうそう、ドラム、そうこなくっちゃ!」みたいな、
その曲がその曲であるために、外しちゃいけない、
いや、お願いだから外さないで、みたいなポイントが、
そこかしこにあるんですね。

音楽の楽しみ方は人それぞれなんで、
そんな「外さないで」なポイントを、
わざわざ外すことを楽しむ人たちもいるのだけれど、

やっぱり多くのロックファンは、
「くるぞくるぞ」とワクワクし、
「きたぁあああああ」とコブシを振り上げて、
全身にアドレナリンが駆け巡る快感を楽しむようなところがある。

ロック系のカバーをやる人が「完コピ」を大事にするのは、
この「外しちゃいけない大事なポイント」で、
あれ?と聞く人の首をかしげさせたくない、
いや、期待通りコブシを振り上げていただきたい、
なんなら自分もその瞬間、心の中でちっちゃくガッツポーズを決めたい。
そんな思いからなのではないか。

しかし、この「外しちゃいけない大事なポイント」を、
聴く人に心の底から「うぉおおお」とコブシを振り上げてもらえるレベルにするには、

単に音が間違っていなければいいとか、
リズムのハマリが決まればいいとか、
おんなじようにディストーションがかかればいいとか、
そういうことでもありません。

たとえば、聞く側になったとき、
そのフレーズのどこに、何に、
「うぉおおお」と震えているのかを、掘って掘って掘りまくる。

それは、ゴーンという音圧だったり、
ぱきーんというテンション感だったり、
思わずカラダが動き出してしまうグルーヴだったり。

ほんっとに深い深いところに、
たくさんの仕掛けがあるわけです。

そんな大事な仕掛けの数々を拾えないまま、
のっぺらぼうのようにリフだけコピーしても、
コブシを振り上げてもらえる仕上がりにはなりません。

「コピーバンドじゃなくって、カバーバンドだから」
「別にオリジナル通りやりたくないんで」
それは、ほんっとにごもっともです。

でもね、それならオリジナルとおなじくらい、
いや、そのオリジナルを越えるくらいの、
「うぉおおお」という精度に、
自分たちのバージョンを昇華しなくっちゃ。

単に劣化コピーになるなら、
その曲をやる意味がなくなっちゃうんですよね。

いや、ほんっとに、いつもながら、
自分で書いていて、耳が痛い。

一生修行。
音楽って、ロックって、本当に深いものですね。

■無料メルマガ『声出していこうっ』。『声出していこうっ!』をリニューアルしました。プライベートなお話からマニアックなお話まで、ポップな感じで綴っていきます!(ほぼ)毎週月曜発行!バックナンバーも読めますよ。

 - バンド!, 完コピ, 音楽

  関連記事

とりあえず飛び込め~Singer’s Tips #32~

うまくなったら、バンドやりたい。 いい曲書けたら、音源つくりたい。 自信がついた …

なにこれ?こんなんでいいの?

20代前半まで、 アートなんて自分とは無縁のものだと思っていた私が、 ツアーのす …

「これで完璧!」って、なぜ言える?

神は細部に宿る。 通り一遍やるなら、誰でもできる。 ひとつ、ひとつの精度をどこま …

「原体験」こそが自分を動かす原動力

「どんな音楽が好きなの?」という問いに、 アイドルやV系スターの名前を言うことが …

「へたくそな自分」を楽しむ

一昔前までは、 『NHKのど自慢』に登場するような、 歌好きのひとたちって、 も …

完コピ上達法|歌が劇的に変わる5つのチェックポイント

歌の完コピ(完全コピー)は、表現力を磨く究極の上達法。 アマチュア時代から一貫し …

「人前で歌うとき」の理想的な状態

人前で歌うとき、パフォーマンスするときに、 重要だと考えていることは3つあります …

「私の歌って、どうですか?」

「自分の歌ってどうなんだろう?」 歌う人誰もが一番知りたいのってそこなんだなと、 …

何才までロックします?

「外タレのチケットの値段をつり上げているのは、 ストーンズとポール・マッカートニ …

絶対音感、いりますか?

つい先日、某テレビ局の方から不思議なお仕事の依頼があり、 お話を伺いました。 内 …