大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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人は、人の「覚悟」に感動するのだ。

      2023/11/07

テクノロジーは、人間の技術力を低下させる。

こんな印象を持っているのは、私だけではないでしょう。

1980年代の後半、広告代理店でアシスタントをしていた頃、
「ちょっと、あのポスト、邪魔だね」のプロデューサーのひと言で、
映像エンジニアさんが何時間もかけて、ポストを跡形もなく消していくのを目撃しました。

同じ頃、音楽の現場ではエンジニアさんが、「イントロ4小節聞いて、サビに飛びたいんだよ」というディレクターのオーダーに、アナログ・テープをカッターで切って繋げるという神業で対応していました。
カセットテープとおんなじ、ただの茶色いテープです。
音符が書いてあるわけじゃない。一体全体どうやっていたのか。
職人って本当にすごいものです。

どちらも、今や、スマホでちょちょいのちょい。
こどもでもできる作業になりました。

「コピペ」なんてことばをはじめて聞いたのは、90年代に入ってから。
それ以前は、48小節でも、64小節でも、同じフレーズを、何度も、何度も歌いました。
一瞬でも間違えれば、即やり直し。
歌えるまで、歌い続けなくてはなりません。
1曲のコーラスレコーディングに3時間も4時間もスタジオに缶詰になったこともあります。

「歌詞おなじなんで、貼っときます」もなければ、
「ピッチ、適当に修正するんで」も、
「上手く歌えてるとこ、コピペするんで」も、
「リズムよれてるけど、大丈夫」も、もちろん、ありません。

プロでい続けるためには、技術力だけじゃなく、
体力、集中力も試されました。

そんな頃、よく聞いたのが、新刊(『これで、歌がうまくなるコツがぜんぶわかる』)でお話している美空ひばりさんの逸話。

「一回しか歌わないわよ」と言い切るために、
ひばりさんは、どれだけ準備をしただろう。

すごい人はね、すごい人であろうとする覚悟がある。
言い切ることで、自分にプレッシャーをかける。
現場の緊張感を高めることで、ゾーンに入りやすい空気感をつくっていく。

人は、人の「覚悟」に感動するのだ。

時代は変わっても、けして変わらない、人間の本質です。

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