シンプルでもいい。複雑でもいい。「生きる」を楽しむ。
学生時代、小笠原の父島という島を、
友人たちと共に自転車を担いで訪れたことがあります。
ひょんなことから、
島で農業をしているおじさんと仲良しになり、
滞在中、毎日のように、
南国の大きく育った植物に囲まれた、
そのおじさんの山小屋を訪れました。
雨風をよける目的で建てられたに違いない小さな山小屋、
廃材と長い長いホースを寄せ集めてつくった露天シャワー、
小さな焚き火のスペースから見下ろす、
現実のものとは思えない、真っ青な海。
そこで、自分たちが海で釣ってきた魚をさばき、
おじさんが山から採ってきたタケノコを煮て、
おじさんの畑で取れた大きな大きなスイカを食べて、
あぁ、これが人間の生活ってものなんだ、と、
泣きそうになりながら思ったことを、
今も鮮明に思い出します。
ここでは、「手」と「食べ物」がこんなに近い。
自分の手がつかみ取った食べ物を直接食べて生きるって、
これこそが、生きるってことじゃないか・・・と。
都会育ちの私には、あまりに刺激的で、
感動的な時間でした。
そして、いつか、
こんな場所で、こんな風に、
人間らしく暮らしたいと、強く望んだものです。
時は流れ・・・
税務関係の書類の山に囲まれて、
一日中、余裕なく、あくせくと過ごしながら、
漠然と父島のことを思い出していました。
あんなにシンプルに生きてみたいと思ったのに、
今の私の生活はなんて複雑なんだろう。
ただ、生きているというだけで、
どうしてこんなに煩雑な書類の山に囲まれなくちゃいられないんだろう。
ただ、ただ、人と関わりたいと思うだけで、
私はこうしてパソコンを叩き、
ことばは、電気とか電波とか信号とか、
よくわからないものに変換され、
地下だか電線だか宇宙だか、
よくわからないところを飛び交う、
正体不明のものは、
誰かの家の機械の中に入り込み・・・
そんな「システム」に、
私たちはどれだけのエネルギーや時間をつかってきたんだろう。
コンビニで買ってくる水、
Amazonから配達されるコーヒー、
食べ頃になる前にもぎ取られるフルーツ、
食べ物たちは、一体何人の手を伝って、
私の家にやってくるんだろう。
あぁ、都会は複雑で、
現代を生きるということは、
というか、
私という人間を生きるということは、
なんて複雑で・・・
しかし、そう考えるほどに、
不思議なほど、この生活が愛おしくも感じました。
だからこそ、出会える人たちがいる。
だからこそ、現実化できる理想がある。
きっと、人間は、
ひとり、ひとりが、小さな夢を叶えたくって、
ちょっとずつ、ちょっとずつがんばって、
こうやって社会を作ってきたんだなぁ。
「システム」って、
そんな、たくさんの人たちが紡いだ、
夢の集大成なんだなぁ。。。
どんな物事も一面だけを受け取ることはできません。
表と裏と、両方を受け入れて、
初めて、それを、その人を、受け入れたことになる。
またいつか、あの島で、
なにも考えずにふわりと時を過ごせる日がくるのでしょうか。
遠い日の、この上なく満たされていた、
あのシンプルな時間を思いながら、
まだまだ当分の間、
この複雑な人生を楽しみたいと思います。
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